
1月27日、衆院選が告示されます。突然の解散による慌ただしい総選挙となり、物価高や外交・安全保障、政治とカネの問題など、喫緊の課題が一気に争点化しています。こうした中で、各党の政策パンフレットを丁寧に読み解いていくと、この国の根幹に関わるテーマまでが、十分な議論を経ないまま提示されていることに、強い違和感を覚えます。
自民党の新しい政策パンフレットには、皇位継承のあり方について、「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする案を第一優先とする」という、極めて踏み込んだ表現が記されています。この一文からは、数千年にわたって続いてきた「男系男子」という伝統を、何としてでも守り抜こうとする強い意志が感じられます。しかし同時に、その伝統の守り方が、いまを生きる私たちの感覚や社会の実情と、あまりに乖離してはいないかという疑問も湧いてきます。
(なお、2024年衆院選、2025年参院選の自民党マニフェストには、男系男子に関わる具体的な言及はありません)

具体的な数字を見てみると、その「ズレ」は驚くほど鮮明です。最近の読売新聞の調査では、女性天皇を認めることに賛成する人が69%に達し、反対の7%を大きく上回っています。さらに共同通信の調査では、その支持が9割という圧倒的な数字を記録したこともあります。こうした世論の底流にあるのは、性別で役割を固定しないという現代的な価値観はもちろんのこと、日々のご公務に真摯に向き合われる愛子さまのような女性皇族への、国民の深い敬愛の念ではないでしょうか。
それにもかかわらず、自民党が提示した解決策は、あえて「旧宮家の男系男子を養子に迎える」という、今の私たちには馴染みの薄い、極めてテクニカルな手法を優先するものです 。今の日本列島を「強く豊かに」と願う一方で、皇室という国の象徴については、国民の7割から9割が抱いている「女性天皇でも良いのではないか」という素朴で切実な願いを、伝統という言葉で封じ込めてしまっているようにも見えてしまいます。
さらに気になるのは、この極めて重要なテーマが、今回のような突然の解散総選挙の中で、あたかも他の政策と同列に扱われ、結論へと近づけられようとしている点です。皇位継承は、政権の浮沈や選挙の勝敗と結びつけて判断すべき問題ではありません。ましてや、国民が十分に考える時間もなく、争点が錯綜する「どさくさ紛れ」の選挙の中で、方向性を決めてしまうような性質のものではないはずです。
パンフレットには「国民への丁寧な説明を行う」とありますが、それは本当に国民の声を聴くための対話なのか、それとも既に決めた方針を理解させるための説明になってしまうのか。皇位継承は、説明して押し切る問題ではなく、時間をかけて社会全体で納得を積み重ねていくべき課題です。拙速な結論は、かえって皇室の安定を損ない、国民の分断を深めることになりかねません。
こうした中で、中道改革連合に合流した公明党の皇位継承に対する姿勢は、冷静で合意形成を重視する立ち位置にあります。伝統の尊重と将来の安定性、その両立を図ろうとし、「国民の理解」と「静かな議論」を繰り返し強調しています。公明党は、皇族数の減少を国家の基本に関わる課題と捉え、政府の有識者会議が示した「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案」と「皇統に属する男系男子を養子に迎える案」の双方について、皇族数確保の選択肢として認めています。ただし、それは男系継承を絶対視する立場からではなく、あくまで実務的・現実的な対応として位置づけている点に特徴があります。また、公明党は、現在の皇位継承の流れ、すなわち秋篠宮さまから悠仁親王殿下へと続く順位については、政治的に揺るがせにしてはならないとしています。その上で、次の世代以降のあり方については、解散総選挙のような非日常の局面で結論を出すのではなく、落ち着いた環境の中で、将来課題として丁寧に議論を重ねるべきだという慎重な姿勢を示しています。
皇位継承の問題は、選挙の争点として議論されるものでも、短期的な政治判断で決められるものでもありません。伝統を尊重するからこそ、国民の理解と納得を何よりも大切にし、時間をかけて合意を築いていく必要があります。政治が果たすべき役割は、結論を急ぐことではなく、社会が落ち着いて考えられる環境を整えることではないでしょうか。
衆院選の告示を前に、私たちは政策の派手な言葉だけでなく、その決め方や進め方にも目を向ける必要があります。皇位継承という国の根幹に関わる問題こそ、選挙の喧騒から距離を置き、静かに、丁寧に議論されるべきテーマであることを、あらためて心に留めておきたいと思います。
