被災者台帳とは、災害が発生した場合、被災者の援護を総合的かつ効果的に実施するための基礎となる台帳であり、災害対策基本法第90条の3第1項において、市町村の長が作成することとされています。
被災者台帳を導入することによって、被災者の状況を的確に把握し、迅速な対応が可能になる他、被災者が何度も申請を行わずに済む等被災者の負担軽減が期待されています。このため、近年、東日本大震災や広島土砂災害、熊本地震等大規模災害のみならず災害が多発する中、被災者台帳の作成への認識が高まりつつありますが、その作成は必ずしも進んでいません。
こうした実態を踏まえ、内閣府においては、平成26年度被災者台帳調査業務報告書をとりまとめ、地方自治体に対して、先進事例集、導入支援実証報告及びチェックリストを提示しています。
この内閣府の報告書において、被災者台帳の先進事例の一つとして取り上げられている「被災者支援システム」は、1995年の阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた兵庫県西宮市が独自に開発したシステムで、現在、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の「被災者支援システム全国サポートセンター」において、全国の地方公共団体に無償で公開・提供されています。
このシステムの最大の特徴は、家屋被害ではなく、被災者を中心に据えている点です。住民基本台帳のデータをベースに被災者台帳を作成し、これを基に、り災証明書の発行、支援金や義援金の交付、救援物資の管理、仮設住宅の入退居など被災者支援に必要な情報を一元的に管理します。これによって被災者支援業務の効率化はもとより、被災者支援業務の正確性及び公平性を図る事ができます。
システム導入に当たっては、厳しい財政事情の中、「システム経費まで捻出できない」、「いつ起こるか判らないことにお金も労力もかけられない」、又は「SEのようなコンピューターに精通した職員がいない」等消極的な意見が聞かれます。
しかし、被災者支援システムは、阪神淡路大震災の最中に、職員が被災住民のために開発したもので、必ずしも高いIT能力のある職員がいなければできないわけではありません。また、導入にあたって、地方自治体からの求めに応じて、被災者支援システム全国サポートセンターから講師派遣することも可能です。仮に民間企業に導入支援を委託したとしても、20万円から約50万円弱程度しかかかりません。新たな設備は特に必要なく、既存のパソコンがあれば十分対応できます。
まずは市町村ごとに、「被災者台帳・被災者支援システム」導入の重要性を再認識して、早急に具体的な検討に入るべきです。
他方、昨年の広島土砂災害や今般の熊本地震においても、システムが導入されていたにもかかわらず、導入後の運用が適切になされていなかったため、いざというときに十分使えなかった事例も発生しています。システムの導入は、運用の入り口です。運用に関するマニュアルづくり、研修、訓練などを繰り返す必要があります。
一例を挙げれば、罹災証明書の申請受付に当たって、受付を優先するのか、相談対応を優先するのか、事前にマニュアル化をしておく必要があります。熊本地震における熊本市などの事例をみると、申請時に住民とじっくりと状況を聴き取るような取組を行いました。その結果、受け付けに掛かる時間が長くなってしまい、一日に受けつれられる件数が限られてしまいました。受け付け開始時間に、一日の受付可能件数を超えてしまうといった状況となりました。受付は、単に記載事項が間違っていないか、できれば地図で該当の場所を確認するだけで完了すべきだと思います。受付と相談は切り離すべきです。そうすれば受付は応援の他自治体の職員でもできるようになり、被災自治体の職員のマンパワーを有効に使いこともできます。
現在、茨城県では大規模災害に備える「被災者台帳・被災者支援システム」の導入を、県と市町村が一体となって進めています。いざというときに、役に立つシステムの構築を目指します。
(写真は、関東東北豪雨の被災地・常総市の避難所で被災者支援システムの説明を受ける公明党山口代表)