写真で確認・出張受付…罹災証明書発行、早さ優先
朝日新聞(2018/7/17)
西日本豪雨の被災自治体で、家屋の被害を認定する「罹災(りさい)証明書」の発行業務を効率化する動きが相次いでいる。被災者が公的な支援を受けるために必要で、迅速な発行が求められているからだ。ただ、急ぐあまり、手続きが拙速にならないかとの懸念もある。
総務省消防庁によると、今回の豪雨では31道府県で住宅約2万8千棟が被害を受けた。自治体は家屋調査に基づき、「全壊」「大規模半壊」などと被災の程度を判定。被災者は罹災証明書をもとに支援金や税金の減免を受けられる。仮設住宅の入居にも必要になる。
広範囲で浸水した岡山県倉敷市真備(まび)町では、避難所となった市立薗(その)小学校の図書館に14日、証明書の申請窓口が設けられた。カメラやスマホで撮影した家屋の写真を職員が確認。「天井に水が来ているので全壊の床上浸水です」などと被災者に説明していた。
倉敷市は今回、証明書発行の特例措置を導入。本人確認のための免許証などと被災状況がわかる写真を提示してもらい、実際の浸水域と照らして矛盾がなければ即日交付している。担当者は「行政手続きを簡素化し、いち早い生活再建に役立てたい」と話す。真備町では豪雨で約4600戸が浸水したが、約1週間後の14日時点で約4200件の申請を受け付けた。
広島県呉市が取り組むのは「出張受付」だ。
「罹災証明書は申請しましたか?」。約80人が身を寄せる避難所では16日に呉市の職員が訪れ、次々と避難者に声をかけていた。
呉市は少なくとも4千件の罹災証明の申請があると見込んでいる。特に被害が深刻な2地区の避難所では職員が一人ひとりに申請の意思を確認している。
出張受付と並行して、土石流が襲った地域の家屋を消防職員が調査。申請内容と被災状況が合致すれば、証明書発行初日の17日から交付する。
上流のダム放流後に川が氾濫(はんらん)した愛媛県西予市野村町では、被災者の申請を待たずに市職員の目視による1次家屋調査を9日から進めている。担当者は「一刻も早く(証明書の発行を)してほしいとの要望がたくさん来ている」という。
内閣府は、罹災証明の発行について今年(平成30年)3月に、指針の変更を行いました。災害に係る住宅の被害認定は、被災者の支援措置の前提となる罹災証明書の交付に不可欠なものであり、迅速かつ適切な実施が求められています。内閣府は、これまでも大規模な災害による経験を踏まえ、住宅の被害認定の際に参考となる『住家の被害認定基準運用指針』や『住家被害認定業務 実施体制の手引き』について、幾度も見直しを行ってきました。平成30年3月の見直しは、平成25年の見直し以降に発生した熊本地震や豪雨災害等の大規模な災害対応での経験や知見を踏まえ、運用指針や実施体制の手引きの改定を行いました。特に被災自治体からの要望が多かった罹災証明書の早期の交付に資する被害認定調査の効率化・迅速化等に向けた見直しが行われました。
そのポイントは、写真を活用した判定の効率化・迅速化にあります。航空写真等を活用して「全壊」の判定を可能としました。また、地盤等の被害に係る判定の効率化・迅速化や津波、越流、がれきの衝突等の外力が作用することによる「一定以上の損傷」を「外壁及び建具の損傷程度が50~100%」と明確化しました。
しかし、ここでいう罹災証明の迅速化に写真等を使う手法は、航空写真等で津波等で甚大な被害な被害を受けた地域を「全壊」と地域指定することを可能としたと理解すべきです。専門家によると、罹災証明書には、(1)発行内容の管理、(2)再審査時、前回判断内容の根拠記録保持、(3)客観記録との紐付け、(4)判断変更に伴う一連の手続き自動変更処理、(5)証明書再発行の考慮、などが担保されている必要があります。迅速化の一方で、保存ができない住民の写真のみの罹災証明で将来的に問題が起きないか少し心配です。
また、罹災証明書の申請住所と役所が把握している固定資産の家屋番号との突合が果たしてうまくいくのか、大きな懸念が残ります。罹災証明書を行政がかかえる様々なデータとどのように紐づけしていくか、倉敷市の今後の動向に注目したと思います。