政府は分かりやすい情報提供を
地震と津波の被害に加え、原発事故の被害も重なった今回の東日本大震災は、今まで日本民族が味わったことのない“複合災害”となってしまいました。
これにどこまで対応できるか、日本は今、大きな試練に直面しています。
東京電力福島第1原子力発電所1~3号機が地震によって自動停止した後、緊急炉心冷却装置と、停電時に除熱装置を動かす非常電源が故障するトラブルが発生。これに対し政府は3月11日夜、原子力緊急事態を宣言しました。
その後も、この事態は悪化し、1号機に続き、3号機で水素爆発が発生、原子炉建屋が壊れました。
運良く、燃料棒が入っている原子炉圧力容器は破損を脱がれ、放射性物質が大量に漏れる最悪の事態には陥っていません。原子炉そのものが破壊された旧ソ連時代のチェルノブイリ原発事故とは違い、政府も落ち着いた対応を住民に求めています。
しかし今後、状況がどう推移するかは予断を許さない。しかも、大震災の救助活動が続く中での対応を迫られる厳しい事態です。また、原発停止の影響で東電は14日に初の「計画停電」を実施。鉄道の運休など混乱も招いています。
政府、東電は、技術的な事故対処、住民避難、安全な停電対策を進めるとともに、すばやく、分かりやすい情報を国民に提供する必要があります。
特に原発にかかわる情報については、報道先行でさまざまな見解が伝えられることも重要であるが、時に相反するような見解に接すると国民は不安を覚えます。原子力災害の場合、情報は「量より質」が要請されます。
原発の安全確保には、原子炉を「止める」「冷やす」、放射性物質を「閉じこめる」の3つの機能が不可欠です。しかし、今回の水素爆発は、「冷やす」機能に不備があったことが明確になりました。これは、現行の原発の安全対策を一気に吹き飛ばすほどの衝撃的なトラブルであることは間違いありません。
大震災直後に原子炉を自動的に「止める」ことには成功しましたが、燃料棒には高温の「余熱」があり、運転停止後も水を入れて冷やし続ける必要があります。今回はこれが機能していません。水を入れる除熱装置を動かす非常電源が稼働しなかったからです。化石燃料による地球温暖化で原発への再評価がされている現在、世界が日本の対応を見守っています。
さらに、地震災害、津波災害、原発事故の三重苦を受けた地域の視点からみてみると、抜きがたい不信感を住民に植え付けたことは否定できません。
福島県の浜通りの住民が故郷を離れ、その数は7650人(17日午後4時現在)に達しています。日立市に設置された避難所にも、200人近くの方が身を寄せています。いわき市平から来たという方にお話を聞くと、「地震や津波の恐怖は見えるし、その瞬間を乗り越えれば生きていける。原子力は見えないし、一生その(汚染の)恐怖と生きていかなくてはならない。もう、原発は廃炉にしてもらいたい」と、低い声で語ってくれました。
日本の原子力行政は、この困難な事態をどのように乗り越えるかという深刻な課題と、その後の信頼性の回復という重い課題を瀬をっています。