9月7日、富山県が黒部市で実施した総合防災訓練で、飼い主とペットの「同行避難」の訓練が行われました。災害時に、ペットと一緒に避難所に向かうことを想定し、犬を連れて障害物や煙の中を通る訓練を実施しました。慣れない状況で、普段どおりに行動できない犬もいて、災害時の同行避難の難しさをあらためて考える機会になりました。
環境省は昨年8月、全国の自治体に配布した「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」で、犬や猫などペットとの同行避難を原則とすることを初めて示しました。これを受けて、自給体では避難所などの受け入れ体制やルールづくりに動き出しています。しかし、その自治体の対応には格差が生じています。
同行避難が注目されるようになった大きなきっかけは、2011年の東日本大震災に他なりません。避難所の運営に当たる自治体には、ペットの扱いについて事前に決めていなかった所が多くありました。避難所にペットを受け入れるかどうか、どのように受け入れるかをめぐって混乱が生じた例も少なくありません。
また、受け入れた場合も、他の避難者から鳴き声や臭いの苦情が出たり、アレルギーの発症、衛生面への不安の声が上がってトラブルが生じた事例もあります。
原発事故が発生した福島県では、事故直後に避難指示が出された福島第1原発から半径20キロ圏内で、住民がペットや家畜を残したまま避難せざるを得ませんでした。このため多くの動物が餓死したり、一部が野生化するなど深刻な事態が発生。動物愛護団体などが、現地で被災した動物たちの救援・保護活動を行いました(現在を続いています)。
こうした中で、避難所でも飼い主とペットが安心して生へ活できる体制づくりを求める声が高まり、公明党も2011年5月に発表した東日本大震災復旧復興ビジョンの中で、ペットと共に避難するための環境整備や預かり施設の確保、飼い主不明の動物の引き取り先確保などの対策を政府に求めました。
環境省のガイドラインは、東日本大震災の経験を踏まえ、飼い主や自治体などの役割、災害時の避難所への受け入れ、仮設住宅での同居、飼い主のいない動物の保護のあり方などを示しています。
環境省のガイドラインを受け、全国の自治体では、同行避難を前提とした体制づくりが始まっています。東京都新宿区は早くから動物救護の対策に取り組み、2004年に避難所での動物救護マニュアル(手引)を作成。区内51カ所の学校避難所すべてに配布されています。
マニュアルでは、①避難所は人間の居住空間と動物の飼育場所を分離して、動物はケージ(かご)や、つなぎ止めで飼育、②避難所での飼育は飼い主の責任で行い、ケージやえさも飼い主が用意、③飼い主不明の動物も、保護先が決まるまで避難所で一時的に飼育ーーとの基本方針を明示しています。
災害時には避灘所に「動物救護部」を立ち上げて飼育場所の運営に当たることや、獣医師会が応急医療活動を行うことなども盛り込んでいます。
新宿区では飼い主不明の動物のため、各避難所にケージやリードなども準備していますが、このような取り組みを行っている自治体は、まだ多くはありません。特に大都市の自治体では、避難所に押し寄せる多くの住民への救護活動を、どうしたら円滑に進めませているか頭を悩ませており、「とても動物どころではない…」という本音も聞こえてきます。
茨城県でも、井手よしひろ県議らの働きかけにより、県地域防災計画に「愛玩動物の保護対策」という項目を新たに書き加えました。その中では、「災害時における動物の避難等は、原則、飼い主が責任をもって行うものとするが、県は、飼い主が避難所に愛玩動物と同行避難できるよう市町村等と協力して必要な措置を講ずるとともに被災した愛玩動物の保護に努める」と定めています。
災害時にペットや飼い主を守る活動を行っている一般財団法人「全国緊急災害時動物救援本部」常務理事の岡崎留美さんは、避難所でのトラブルを防ぐためにも、飼い主の責任として、犬の場合なら普段から「伏せ」「お座り」「待て」といった基本的なしつけや、ケージに慣らすこと、狂犬病予防接種などの健康管理をすることが欠かせないと指摘。「ペットのことも考えて、災害時に何を持って、どの経路で避難するか、家族で話し合っておくことも大事」と強調しています。
国内で飼われている犬、猫は2000万頭を超えるともいわれ、多くの人々の生活から切り離せない存在です。被災地では動物が被災者の心をいやす「アニマルセラピー」の効果も注目されています。災害時に、人間と共に動物たちの安全・安心も確保されるよう、飼い主の努力と併せ、自治体や関係機関の積極的な取り組みが望まれます。
<平常時>
●ペットの適正な飼育、災害への備えに関する飼い主への普及啓発
●ペットとの同行避難を含めた避難訓練
●避難所、仮設住宅などでのペットの受け入れ、飼育についての検討回頭
<災害時>
●ペット同行避難者の避難所への誘導、支援
●避難所・仮設住宅でのペット同行避難者の受け入れ
●都道府県などに対し、避難所・仮設住宅におけるペット飼育状況の情報提供
●避難所・仮設住宅でのペットの適正な飼育についての指導、支援
●都道府県や現地動物救護本部などが行う動物救護活動への連携、協力、支援要請
●被災住民らへの動物救護、飼育支援に関する情報の提供