茨城県北芸術祭まであと40日余り。参加作家の創作活動が地元でも始まり、住民の期待感も徐々にではありますが高まってきました。
こうした大規模な屋外芸術イベントで、今も多くの県民の記憶に残っているのが、1991年10月に開かれたクリスト・アンブレラ展です。常陸太田市から旧里美村の里川沿いに巨大な青い傘が1340本も並びました。世界的な芸術家クリスト氏が日米同時に開催したもので、台風の影響による雨模様にもかかわらず、初日は2万人、2日目は5万6000人が県内外から訪れました。米国での事故の影響で予定より早く閉幕しましたが、21日間で57万人の来場者を県北の地に運びました。
アンブレラ展は、アメリカのクリスト・ヤバシェフ氏(当時56歳)が試みた「環境の芸術」です。日本とアメリカの田園の中に傘を置き、新たな切り口から風景をとらえるとともに、両国の類似と相違とを浮き彫りにするのが狙いで、カリフォルニアでも同時に開催されました。クリストさんは、ビルや橋を布で覆う「梱包(こんぽう)の美術家」としても有名でした。構想実現のため3年前からしばしば来日、東北、関東、関西など各地を歩いた末、常陸太田市から里美村に至る谷あいの地形がすっかり気にいったといわれます。このプロジェクトに必要な約36億円の費用は、クリスト氏が作品売却などで自力調達しました。
国道349号沿い約19キロの田畑、河川敷、道路に、高さ6メートル、直径8.69メートルのアルミ製で青色の傘計1340本を立てたものです。アメリカのカリフォルニアでは1760本の黄色の傘が設置されました。
瀬戸内国際芸術祭に100万人、越後妻有の大地の芸術祭が50万人を動員する中、このクリフト・アンブレラ展は、日本における地域芸術祭の先駆けと再評価されています。アンブレラ展の会場に、この県北地域が選ばれたこと。そして、その開催から30年近くが経過しても、県北の住民にはその時の感動の体験が記憶の中に刻印されています。水戸芸術館では、今回の県北芸術祭に連携する形で、10月から2カ月にわたりアンブレラ展の回顧展を開催します。県北芸術祭は、こうした先例を上回るような魅力あるものになることを期待したいと思います。
クリフト・アンブレラ展の記録「青いカサの野外美術展」
茨城県の記録映画より、クリフト・アンブレラ展の記録(1991年10月撮影)