日立市のふるさと納税について調べてみました。
2023年度(令和5年度)のふるさと納税件数は14,826件で、22億2,293万円。返礼品や経費を差し引いた収益は約12億2千万円と推計されます。茨城県内では、境町、守谷市、八千代町に続いて第4位に位置します。
ふるさと納税は、全国の自治体がそれぞれの魅力ある返礼品を通じて地域をアピールし、応援を募る制度として広く定着しています。茨城県日立市も、世界的な電機メーカー・日立製作所の創業地として、その技術力を活かした家電製品を中心とした返礼品で一時は多くの寄附を集め、注目を集めてきました。
しかし近年、全国的傾向とは逆に、日立市のふるさと納税寄附額は減少しています。その背景には、制度自体の見直しと、それに伴う返礼品の厳格なルール化が大きく影響しています。2019年、総務省はふるさと納税の運用ルールを明確化し、「寄附額の3割以内の返礼品」かつ「地場産品に限定する」という方針を打ち出しました。これにより、基準を守らない自治体はふるさと納税制度から除外されるという強い措置が取られるようになったのです。
日立市はこの制度変更に従い、適正な運用を行ってきましたが、結果として以前のように大胆な返礼品を展開することが難しくなり、寄附額の減少に歯止めがかからなくなりました。事実、制度が緩やかだった頃には30億円近くを記録していた寄附額が、2022年度には約20億円にまで落ち込みました。
とくに日立市にとって悩ましいのは、主力である家電返礼品の扱いです。洗濯機や炊飯器といった高品質な製品は確かに魅力的ですが、その分調達コストや配送費がかさみ、制度が定める「寄附額の50%以内に経費を抑える」という経費率の制限に対応するため、やむなく提供地域を関東圏内に限定する措置を取らざるを得ませんでした。これは結果として、寄附者の範囲を狭めてしまうことになり、寄附額の低下を招いたのです。
そうした中、2023年度には明るい兆しも見え始めています。従来は地域限定だった洗濯機の返礼品を全国に提供するように方針を転換したことで、寄附額は4年ぶりに回復しました。総務省による制度見直しの動きを前に、全国的に「駆け込み需要」が発生したことも一因と考えられます。ただ、それでもなおピーク時には及ばず、制度が課す制約の重さを感じざるを得ません。
全国のふるさと納税で寄附額を伸ばしている自治体の多くは、米や果物、肉などの軽量でコストの抑えやすい地場産品を数多く用意し、1万円前後の手ごろな寄附で幅広い層を取り込む戦略をとっています。それに対して日立市は、高額寄附を前提とした「質の勝負」の戦略。これは制度が緩やかな時代には有効でしたが、返礼品ルールが厳しくなる中では、かえってその強みが“重荷”になってしまうというジレンマを抱えているのです。
こうした状況を打破し、日立市のふるさと納税を再び成長軌道に乗せるためには、制度の制限を前提としながらも、その中で選ばれる魅力をどれだけ作り出せるかが問われます。たとえば、海産物や果物狩りといった体験型の返礼品の充実、あるいは地元企業との連携による物流や生産コストの削減など、創意工夫が必要です。
地域の資源を最大限に生かし、「応援したい」「もらってうれしい」と思われる返礼品を、どれだけ制度に沿って提供できるか。それが、これからの日立市ふるさと納税の未来を大きく左右するポイントになっていくでしょう。制度改革という試練を乗り越え、日立らしい誇りと魅力を全国に発信し続けられるかどうか。その挑戦は、これからが本番です。
日立市のふるさと納税の推移と純収入額
「返礼品経費」および「その他経費」は、各年度の寄付額に対する概算です。総務省の基準では、返礼品の調達費や発送費、広報費、決済手数料、事務費など経費の合計は寄付額の50%以下と定められており、実際の経費率は日立市の場合おおむね45~50%前後となっています。
例えば茨城県内他自治体の例では、返礼品調達費が寄付額の約25%、送料等その他経費が約20%で、経費合計が寄付額の45%だったとの報告があります。
日立市も高価な家電製品を含む返礼品を提供していますが、総務省通知後は経費率が約45%程度に抑えられており、寄付額から経費を差し引いた純収入は概ね寄付額の50~55%(上表「純収入」欄)となっています。
■寄付金の使途と返礼品の内容
日立市では、ふるさと納税でいただいた寄付金を市民生活の向上につながる様々な事業に充当しています。例えば「子育て支援(学校給食費の無償化)」や「医療機関支援(日立総合病院の設備充実)」、JR日立駅周辺の再開発などに活用されており、寄付が市民サービスの充実に役立てられています。また寄付の申込時には、寄付金の使い道として自然保護、高齢者支援、子ども・青少年育成、伝統文化保護、産業振興、医療・福祉、教育・スポーツ振興、観光振興など細かな分野から希望を指定でき、寄付者の意志を市政に反映できる仕組みになっています。
一方、返礼品については、日立市は「ものづくりのまち」を活かし、地元メーカー(日立製作所)の家電製品を中心に品揃えをしている点が特徴です。寄付額が一定以上(例えば12万円以上)の場合には日立製家電に加えてもう一品選択できるなど、大口寄付者向けの特典も用意されています。特に日立製の洗濯機・掃除機・炊飯器等の家電は人気が高く、寄付額全体の60%以上がこれら家電製品目当ての寄付となっているとの報告もあります。
その他にも、地元特産の常陸牛や海産物、水戸納豆のセット、地酒やスイーツなど幅広い返礼品が用意されており、寄付者は地域の魅力ある産品を受け取ることができます。返礼品の送付にあたっては、市内業者・生産者からの調達にこだわり、地元経済にも波及効果をもたらしています。
日立市のふるさと納税は、年間数億~数十億円規模の寄付を集めるまでに成長し、その約半分が市の純収入として地域課題の解決に活用されています。返礼品も地元の強みを活かした家電等で全国的に人気を博し、寄付の呼び込みに大きく貢献しました。その結果、最近の寄付額は茨城県内でもトップクラス(令和5年度は県内第3位)となっています。今後も適正な経費管理のもとで、寄付金を市民サービス向上に役立てつつ、魅力ある返礼品で全国から日立市を応援してもらう取組が続けられる見込みです。