兵庫県は4月、災害時の避難所などで衛生的なトイレを確保するための手引を作成しました。トイレ対策に特化した手引の作成は「県単位ではおそらく全国初」といわれていています。
衛生的な環境を確保
兵庫県がまとめたのは「避難所等におけるトイレ対策の手引き」。災害時に避難所を運営する県内市町や防災担当職員を中心に、現場のトイレ設営たずさに携わる地域の世話役や自主防災組織のリーダーらを対象に作成されました。
災害時のトイレに関する基礎的な知識や事前の備え、災害発生時の現場対応などを分かりやすく示すことで、劣悪になりがちな避難所などのトイレ環境を改善して衛生を保ち、より健康的な生活環境を確保する狙いです。
食料供給や、電気、ガス、水道などのライフライン復旧は喫緊の対応が必要なものとして知られ、多くの自治体で重点的に対策が整備されていますが、具体的なトイレ対策はあまり知られていません。兵庫県災害対策課は、「阪神淡路大震災から20年目にして初めて光を当てた部分」「やっと回ってきた分野」と語っています。
手引の入手は、県のホームページから可能です。(県内41市町にも配布されていますが、数に限りがあり、兵庫県は直接配布を受け付けていません)
参考:避難所等におけるトイレ対策の手引き
避難所は劣悪なトイレ環境
手引き書がまとめられたきっかけは、東日本大震災の被災者支援から戻った県の保健師や看護師から、避難所の劣悪なトイレ環境について報告があったことです。兵庫県によると、混雑や不衛生、狭い、暗い、和式や段差で使いづらいなどの理由でトイレの使用が苦痛になり、水分や食事を控えることで体調を悪化するケースが続出したということです。
兵庫県は2001年、阪神淡路大震災を契機に避難所運営のガイドラインを策定。13年6月には、東日本大震災の教訓を加味して改訂しました。トイレ対策も盛り込まれましたが、約90ページに及ぶガイドラインのうち、関連の記述はわずか数ページにとどまっていたことから、先の報告などを踏まえて、井戸敏三知事は深掘りを指示。トイレ関連団体や環境衛生の識者、自治体環境関連部局などによる検討会を立ち上げ、約9カ月間かけてトイレ対策に特化した80ページを超える手引をまとめました。
県災害対策課は当初、トイレ対策だけで手引ができるほどの内容になるとは想像していませんでしたが、「調べたり、専門家に聞いたらどんどん出てきた。最終的には、かなり分厚いものになった」と話しています。
必要数の目安は「約75人に1基」
手引の構成は、①災害時のトイレ問題の現状や災害用トイレの種類などの基礎知識②県内市町におけるマニュアル作成やトイレの設置訓練など事前の備え③トイレの清掃方法や災害時要援護者への配慮など本番の現場対応ーに大別されています。阪神淡路大震災の事例から、必要なトイレ数の目安を「約75人に1基」と記すなど、具体的な情報が記述されています。
中でも、避難所など設置場所の状況に適した災害用トイレを選ぶための比較表やチャート、現場の作業手順が分かるチェックシートは実用的で重宝しそうです。
このほか、専門家のコラムや県内市町を対象に実施した調査結果などが掲載されています。
今回の手引作成に当たって県は、これまで曖昧だった災害用トイレの種類を整理し、県内における呼称を統一して定義付けました。災害時の手配で取り違えが発生することを防ぐのが狙いです。
今後、県は県内市町に比較的安価で取り回しやすいタイプの災害用トイレの備蓄を促すとともに、地域の防災訓練でトイレの設置作業を導入するなど県民への理解啓発に取り組んでいく方針です。