10月6日付けの地元紙・茨城新聞の一面に「次世代がん治療法BNCT、来年度治験へ」との記事が掲載されました。BNCTとは、ホウ素中性子捕捉療法)のことで、がん細胞のみに集積する性質のホウ素薬剤を患者に投与し、病巣部に中性子を照射してがん細胞を破壊する治療法です。細胞単位での治療が可能なために身体への負担が少なく、周囲の組織に広がる浸潤がんや多発病変、手術不適応症例などの難治性がんにも有効とされてます。従来の放射線療法で通常6週間必要だった照射が約30分の1回の照射で済み、治療前に薬剤集積を見ることで治療効果を事前に判断できるメリットもあり、次世代のがん治療法として大いに注目されています。
茨城県が筑波大学、高エネルギー加速研究機構などと共同で開発するBNCTは、「iBNCT」とも呼ばれ、高速の中性子ビームを直線型の加速器で作ることに特徴があります。他の研究機関が円形の加速器・サイクロトロンを使うのに比べて小型化が可能で、かつ患者や医師、技術者の被爆や機器の放射化が少ないため、治療効率を上げることが出来ます。こうした独自の技術にこだわったため、開発計画が大幅に遅れています。
iBNCTの研究開発は、つくば国際戦略総合特区の先導プロジェクトに位置付けられました。県が2012年度に整備した「いばらき中性子医療研究センター」に治療装置用加速器を設置し、当初は2015年度までに先進医療の承認を目指していました。
しかし、大強度陽子加速器施設「J-PARC」の技術を医療へ転用する計画でしたが、中性子ビームの増強や安定化が必要となり、装置の設計を約1年かけてやり直しました。治療に不可欠な中性子の発生に成功したのは2015年11月。その後、人体模型への照射実験などを繰り返し、今年1月にマウスを使った予備実験にこぎ着けました。茨城県科学技術振興課によると、これまでに要した研究開発費は同センターの整備費を含め約35億円に達しています。
本年度中に実際に治療に使うホウ素薬剤を動物に投与した照射実験を実施し、2019年度から患者への治験実施を目指します。
BNCTは、茨城県のほか、大阪大学や京都大原子炉実験所、国立がん研究センター、南東北BNCTセンターなどが実用化に向け研究にしのぎを削っています。中でも京大が先行しており、円形加速器(サイクロトロン)を使って再発悪性脳腫瘍や頭頸部ガンを対象とした治験まで進んでいます。
iBNCTの安全性や有効性を確認する治験は、皮膚がんの一種「悪性黒色腫(メラノーマ)」の患者を対象に、来年度にもスタートさせる計画。今後、頭頸部がんや脳腫瘍など、ほかの部位のがん治療適応拡大に向け、装置の高度化を進めていく予定です。
実用化の時期は、先進医療の承認手続きなどを考慮すると治験後3~4年かかるとみられます。また、一般病院への設置に適した商用化にはまだ課題があります。
iBNCTの大きな課題は、研究開発に民間事業者が関わっていないという点です。先行する京大などのBNCTは住友重工(住友商事)グループとの共同開発を進めています。茨城県は当初三菱重工との連携を図って機器を開発してきましたが、三菱重工が医療分野から撤退したため、今後の商品化などには大きなハンディキャップがあります。
井手よしひろ県議ら県議会公明党は、技術的な開発を進めるとともに、地元日立製作所などの総合電機メーカーとの連携を強く呼びかけています。
(写真は、7月10日iBNCT装置を調査した茨城県議会公明党議員会)