12月6日午後、沖縄本島南東の公海上空において、中国海軍の空母から発艦したJ15戦闘機が、日本の空域に接近。これに対し、航空自衛隊のF15J戦闘機が対領空侵犯措置(スクランブル)として緊急発進しました。
その最中、あろうことか中国軍のJ15が、警戒監視中の自衛隊F15に対して「レーダー照射」を行ったのです。それも、2回にわたって断続的に。
火器管制レーダーの照射とは、ミサイルを発射するための最終段階、いわゆる「ロックオン」を意味する明確な敵対行為です。現場のパイロットにかかった圧力は、私たちの想像を絶するものでしょう。
空母の運用能力を高め、沖縄近海で我が物顔に振る舞う中国軍。今回の挑発行為は、日本の安全保障が新たな、そして厳しい局面に入ったことを示唆しているのかもしれません。
崩れ去った「質と練度のアジア最強」神話

少し前まで、航空自衛隊は「数は少なくても、質と練度はアジア最強」と言われていました。しかし、そのバランスは劇的に変化してしまいました。
中国はこの数十年で経済成長とともに軍事力を爆発的に増大させ、いまや最新鋭のステルス戦闘機「J-20」を猛烈な勢いで量産しています。かつては古い機体が多かった中国空軍ですが、現在は質においても日本を凌駕しつつあり、さらにその運用数は日本の4倍以上にも達します。
もはや、日本が誇るパイロットの技量だけでカバーするには、相手の規模と進化のスピードが速すぎるのが現実なのです。
世界は「防衛費増額」へ。日本も例外ではない

視野を世界に広げてみると、この「力の不均衡」に対する危機感は日本だけのものではありません。
ウクライナ情勢以降、世界は「力による現状変更」の脅威に晒されています。各国の防衛予算(軍事費)を見ると、アメリカの圧倒的な規模はもちろん、ドイツやポーランドといった欧州諸国も予算を倍増させています。彼らは自国の経済を守るための「保険料」が値上がりしたことを痛感し、GDP比2%あるいはそれ以上のコストを支払う覚悟を決めたのです。
こうした厳しい国際情勢の中で、日本も大きな決断を下しました。それが2022年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」です。ここで定められた「2027年度に防衛費をGDP比2%へ引き上げる」という目標は、決して数字合わせのためのものではありません。
これは、長年削られてきたミサイルの備蓄や部品の不足を解消し、老朽化した基地を強靭化し、そして相手に攻撃を躊躇させるための反撃能力を持つためにどうしても必要な、現実的なコストです。
周辺国の軍拡に対して日本だけが立ち止まっていれば、パワーバランスはさらに崩れ、かえって紛争のリスクを高めてしまうでしょう。「手を出したら痛い目に遭う」と思わせるだけの備えがあって初めて、抑止力は機能します。

「一衣帯水」の隣国として
しかし、備えを固める一方で、私たちは一度立ち止まって、冷静に考える必要もあります。
そもそも、一衣帯水(いちいたいすい)の国である中国と、これ以上無用に緊張感を高める必要はあるのでしょうか。
中国は日本にとって、細い帯のような川(海)を挟んですぐ隣にある、切っても切れない関係にある国です。歴史的にも、そして現在の経済活動においても、互いに深く依存し合っています。
防衛力を高めることはあくまで「万が一」への備えです。私たちにとって本当に必要な未来は、軍事的な緊張を高め合い、互いに銃口を向け合うことではないはずです。
だからこそ今、求められているのは、対立を煽ることではなく、官民を挙げて隣国との国際協調を粘り強く進めていくことではないでしょうか。
政治の場での対話はもちろん、経済、文化、そして私たち市民レベルでの草の根の交流に至るまで、あらゆるチャンネルを使って相互理解を深めること。武器によって平和を守る以前に、対話によって不信感を取り除く努力こそが、最も重要で、かつ根本的な安全保障なのかもしれません。
緊張が高まる今だからこそ、隣国との握手の手を下ろさない強さが、日本には求められているように思います。
