
参院選で大きく議席を伸ばした参政党。2020年の設立からわずか数年で国政に進出し、地方議員も増やすなど、その存在感を急速に高めてきました。スローガンは「日本人ファースト」。既存政党への不満を持つ層や若年層から支持を集めています。
では、参政党の掲げる政策は、このSDGsとどう向き合っているのでしょうか。
参政党の政策は、脱炭素政策や再生可能エネルギーを否定し、次世代火力発電の推進を掲げる姿勢は、SDG13(気候変動への対策)やSDG7(クリーンエネルギー)と正面から矛盾します。科学的知見への懐疑的な態度や、「薬やワクチンに頼らない」とする健康政策も、SDG3(健康と福祉)における公衆衛生の観点からは大きなリスクをはらんでいます。
さらに、教育面では愛国心や伝統的価値観を強調する一方、多様性やジェンダー平等への配慮は乏しく、SDG5(ジェンダー平等)との乖離が見られます。外国人の受け入れや参政権付与に反対する政策は、SDG10(不平等の是正)が掲げる包摂性の理念とも対立します。国際協力についても、国連中心主義を見直し、主権国家間の連携を重視する姿勢は、SDG17(パートナーシップ)の強化に逆行する恐れがあります。
このように参政党の政策には、その根底にある「日本人ファースト」や「反グローバリズム」といった価値観が、普遍的な包摂性や国際協力と相容れない点が多く見られます。
持続可能な未来を築くためには、特定の国益だけに偏らず、科学的根拠に基づいた政策を進め、国際社会と協力して地球規模の課題に取り組む姿勢が不可欠です。
SDGsとの大きな矛盾
SDGsは、目標達成のために環境、社会、経済が互いに影響し合う「統合的アプローチ」を重視します。しかし、参政党の政策には、深刻なトレードオフ(矛盾)を生む部分が見られます。
1. 環境・気候変動:国際的な潮流からの逸脱
参政党はパリ協定からの離脱と炭素目標の撤回を公約に掲げ、「脱・脱炭素政策」を推進しています 。再生可能エネルギー推進を止め、次世代火力発電を推進するとしていますが 、気候ネットワークからは「最低ランク」と評価され、その科学的根拠も乏しいと指摘されています 。
これは、SDG 13(気候変動に具体的な対策を)やSDG 7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)と真っ向から対立します。気候変動は自然災害の激甚化を招き、日本の経済にも甚大な損失をもたらす可能性があり 、長期的な国益を損なう恐れがあります。
2. 食料・健康:伝統と科学の狭間で
食料自給率の向上や有機農業の推進は、SDG 2(飢餓をゼロに)の食料安全保障や持続可能な農業に貢献する可能性があります 。しかし、「安い輸入品より高くても国産品」の啓蒙や、昆虫食・培養肉といった代替タンパク質を「日本の食文化を無視」として排除する姿勢は 、持続可能な食料システム革新の機会を逸失させる可能性があります。
健康政策では、「薬やワクチンに依存しない」という主張が、SDG 3(すべての人に健康と福祉を)の達成に不可欠な科学的根拠に基づいた公衆衛生対策を弱体化させる危険性があります 。感染症対策や疾病予防において、科学的知見を軽視する姿勢は、国民全体の健康を損なうことにつながりかねません。
3. 教育・社会:包摂性の原則との乖離
教育における伝統的価値観の強調は、国民のアイデンティティ形成に寄与する一方で、多様性や批判的思考、グローバルな視点の育成とどう両立するかが問われます 。特に、選択的夫婦別姓への反対など、伝統的な家族観を重視する姿勢は、SDG 5(ジェンダー平等を実現しよう)が目指す多様な生き方の尊重と衝突する可能性があります 。
最も深刻なのは、外国人政策です。「日本人ファースト」を掲げ、外国人の受け入れ上限設定、社会保障給付の厳格化、公務員採用や参政権付与の禁止を主張しています 。これは、SDG 10(人や国の不平等をなくそう)の「年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する」という普遍的な原則に明確に反します 。このような排他的な政策は、社会の分断を深め、国際社会における日本の評価を低下させる危険性があります 。
4. 国際関係・協力:多国間主義の再考
参政党は「世界に大調和を生む外交」を理念としつつ 、国連中心主義を見直し、主権国家同士の連携を重視するとしています 。ODA(政府開発援助)の国会審議義務化も主張しており 、透明性向上に資する一方で、グローバルな課題解決における多国間協力の枠組みを弱体化させる可能性を内包します。これは、SDG 17(パートナーシップで目標を達成しよう)が求めるグローバル・パートナーシップの強化に逆行する恐れがあります。
日本人ファーストは“誰一人取り残さない”精神と馴染まない
参政党の政策は、日本の国益や伝統文化の保護を強く意識しており、食料自給率向上などSDGsと整合する部分も一部見られます。しかし、その根底にある「日本人ファースト」や「反グローバリズム」、そして科学的知見への懐疑的な姿勢は、SDGsの核となる「誰一人取り残さない」普遍主義、包摂性、そして統合的アプローチの原則と深刻な矛盾を抱えています。
持続可能な日本の未来を築くためには、短期的な視点や排他的なナショナリズムに陥ることなく、地球規模の課題と日本の長期的な持続可能性を見据えた、包括的かつ科学的な政策を推進することが不可欠です。