
各国の首脳らが参加した2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発目標」(SDGs)が全会一致で採択されてから、今年で10年の節目を迎えました。国連は7月14日、全ての加盟国が30年までに達成するSDGsの進捗状況を評価した「持続可能な開発報告書2025」(年次報告書)を発表しました。報告書は、SDGsの達成に向けた取り組みのうち、ある程度の進展が見られるのは35%にとどまると指摘し、全ての目標を期限までに達成するには、取り組みを加速する必要があると訴えています。
報告書によると、日本のSDGs達成度は世界167カ国中19位という結果になっています。欧州以外の国で唯一トップ20入りという、一見すると素晴らしい成績です。日本の高い保健水準(SDG3)や教育(SDG4)を考えれば、この順位も頷けるかもしれません 。
しかし、この「優等生」という評価は、私たちが直面している厳しい現実から目を逸らさせてしまう危険性をはらんでいます。レポートを詳しく読み解くと、日本の輝かしい総合順位の裏で、ジェンダー平等、気候変動対策、持続可能な消費、生物多様性の保全といった、未来の豊かさを左右する極めて重要な目標で「深刻な課題あり」という赤信号が灯っています 。

見て見ぬふりはできない「赤信号」の数々
日本のSDGsダッシュボードは、達成済みの「緑色」と、深刻な課題を示す「赤色」が混在し、国の進捗がまだら模様であることを示しています。特に問題が深刻なのは、以下の分野です。
1. 環境問題:気候、消費、生物多様性(SDGs 12, 13, 14, 15)
気候変動対策の遅れ(SDG13): 日本の発電量のうち、再生可能エネルギーの割合はG7諸国の中でも低く、依然として化石燃料への依存度が高いのが現状です 。2050年ネットゼロという目標は掲げているものの、その道筋は不透明で、G7の電力システム脱炭素化スコアでは最下位にランクされています 。
大量生産・大量消費社会(SDG12): 日本は、一人当たりの容器包装プラスチック廃棄物量が世界第2位という不名誉な記録を持っています 。廃棄物の焼却処理技術は高いものの、それは「リデュース(削減)」や「リユース(再利用)」を基本とする真の循環経済とは言えず、問題の根本解決には至っていません 。
失われる海と陸の豊かさ(SDG14, 15): 島国であるにもかかわらず、乱獲や環境悪化により水産資源は減少傾向にあります 。また、日本から海へ流出するプラスチックごみは年間2万トンから6万トンと推定され、海洋生態系を脅かしています 。生物多様性の豊かさを示すレッドリスト指数も悪化が続いています 。
2. 根深いジェンダー不平等(SDG5)
これは日本の最も象徴的な課題と言えるでしょう。世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数で、日本は148カ国中118位と、G7諸国の中で圧倒的な最下位です 。特に、政治や経済の分野における女性の参画が著しく遅れています。国会議員の女性比率は低く 、企業の管理職に占める女性の割合も16.1%にとどまっています 。
3. 世界への責任(SDGs 16, 17)
日本はSDGs推進の体制を整えているとアピールしていますが、その行動には疑問符が付きます。例えば、日本の大量消費が海外の環境や社会に与える負の影響(国際的スピルオーバー)について、政府の公式報告書(VNR)では十分に言及されていません 。これは、グローバルな責任に対する説明責任の欠如を意味します。
なぜ日本は変われないのか?
これらの問題の根底には、日本の社会システムに深く根ざした「構造的慣性」があります。既存のシステムを維持することには長けていても、気候変動やジェンダー平等といった、社会のあり方を根本から変えるような変革には、大きな抵抗が生まれるのです。
経済力やインフラといった「ハード」な開発指標では世界をリードする一方で、ジェンダー平等や報道の自由、幸福度といった社会の質を示す「ソフト」な指標で立ち遅れる。この乖離こそが、日本の最大の課題です 。
では、私たちは何をすべきでしょうか。レポートは、いくつかの戦略的な道筋を示唆しています。
- 現実を直視する: 高い総合順位に満足せず、G7の中でいかに立ち遅れている分野があるかという事実を、国民全体で共有し、議論を始める必要があります。
- 統合的な政策へ転換する: 環境問題を個別の課題として捉えるのではなく、カーボンプライシングの導入や、真のサーキュラーエコノミー戦略の策定など、経済社会システム全体を動かす統合的な政策が不可欠です。
- ジェンダー平等を法制化する: 企業の自主努力に任せるだけでなく、政治や経済の分野で女性比率を高めるためのクオータ制導入など、実効性のある法整備が求められます。
世界への影響に責任を持つ: 自国の消費が他国に与える影響を測定・報告し、サプライチェーン全体で持続可能性を追求する責任があります。
日本のSDGs達成度は、もはや「他人事」ではありません。高い順位という評価に安住することなく、一人ひとりがこの国の課題を「自分事」として捉え、変革に向けた行動を起こす時が来ています。
持続可能な開発報告書2025
https://dashboards.sdgindex.org/