
8月5日の参議院予算委員会で、参政党の神谷宗幣代表は「日本人ファースト」という言葉の定義と、その目指すところを説明しました。しかし、この説明は、参政党のこれまでの主張や公約、そしてその背景にある思想と矛盾している点が指摘されています。
「日本人ファースト」という言葉は、予算委員会での説明とは異なり、極めて排他的な思想と具体的な政策に繋がっていることが伺えます。
参院予算委員会での神谷代表の「日本人ファースト」の定義
参議院予算委員会(2025年8月5日)での神谷代表の説明によれば、「日本人ファースト」とは、「国境を超えた経済活動が行き過ぎた新自由主義、他国に富が偏在し、それぞれの国の(中間)層が没落していくようなグローバリズムに対して警鐘を鳴らす」ことを意味する「反グローバリズム」のキャッチコピーであるとされています。
その上で、参政党がこのスローガンで目指すのは、「日本は日本として自立し、強く豊かに存在し、他国との協調関係をしっかり作っていく」ことであり、「一つの世界の中に飲み込まれるのではなく、我が国は自律性を持ちながら他国としっかりと連携していく」と述べました。この理念を実現するための具体的な政策として、「安い労働力としての移民の受け入れ制限」や「社会インフラや土地資源などに対する外国からの買収規制」を挙げました。

「日本人ファースト」と外国人排斥の主張との矛盾点
しかし、この予算委員会での説明には、神谷代表および参政党の選挙中やこれまでの言動との間で、外国人排斥に繋がる矛盾が多数見られます。
- スローガンの一時的性質に関する発言との矛盾
神谷代表は、2025年7月14日のTBSの取材に対し、「日本人ファースト」は「参院選のキャッチコピーですから、選挙の間だけのもの」であると述べていました。これは、予算委員会で述べられたような党の根幹的な理念としての位置づけとは大きく異なります。「日本人ファースト」との言葉が排外的な感情を呼び起こすのでは、との問いに対し、「差別だとは思っていない」と繰り返すにとどまり、明確な否定や排除の姿勢は見られませんでした。
神谷氏自身も「この言葉は党員からの提案で、自分が考えたわけではない」と釈明していますが、わずか1ヶ月の経たずに、「日本人ファーストは反グローバリズムのキャッチコピー」と説明が大きく変わっています。
- 明確な外国人への差別と排外主義
神谷代表は、「安い労働力だと言って外国の方を野放図に入れていったら、日本人の賃金が上がらない」と述べた上で、「外国人への優遇は許さない」「外国人の犯罪が増えている」といった発言を繰り返しています。このような経済問題や治安悪化の原因を外国人に帰する論調は、ヘイトスピーチの典型であり、多文化共生社会への挑戦であると指摘されています。
参政党の政策には、外国人労働者の受け入れ上限設定、社会保障給付の厳格化、公務員採用、参政権付与の禁止などが含まれており、SDGsの「誰一人取り残さない」という普遍的な原則に明確に反するとされています。 また、神谷代表は外国人に関する税制について、「日本に住んでなければ(不動産相続税を)取りようがない」「海外の人は払わなくていい」と発言しましたが、これは国籍や居住地に関わらず課税対象であるという国税庁の見解と異なり、誤解を広げかねないとファクトチェックで指摘されています。
- 「反日の日本人」という言葉
選挙中神谷代表は、「外国人を批判するのではない。私たちは“反日の日本人”と戦っているのだ」と叫びました。「日本のことを悪く言う人」や「国の方向性に反対する人」を指して「敵」と見なすレッテル貼りに繋がりかねず、「日本人の中にも敵がいる」という排他的な視線を生み出し、民主主義に不可欠な多様な意見の尊重や対話を否定するものであると批判されています。
- 憲法草案(新日本憲法・構想案)における血統主義と外国人排斥
参政党が公表した「新日本憲法(構想案)」には、外国人排斥の思想が色濃く反映されています。
例えば、草案第19条では、「外国人の参政権は、これを認めない。帰化した者は、三世代を経ない限り、公務に就くことができない」と規定されています。これは、国籍を有していても血統によって就職差別を行うことを意味し、ナチス・ドイツの「官吏層再建法」における「アーリア条項」と比較され、「ナチズム憲法」とまで批判されています。
草案第5条では、「国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める」と規定。これは事実上、外国人の帰化を認めず、日本国籍が血統によって与えられることを意味すると指摘されており、国際連合の基本的「人権」の無視を宣言するものであり、日本を「非文明の野蛮国家」にするとまで言われています。これらの思想は、ナチス・イデオロギーの中心概念である「血と土」のナショナリズムに通底すると分析されています。
- 参政党支持層の排外主義の無自覚
評論家の古谷経衡氏は、参政党の支持層について「無党派層」ではなく「無関心層」であると指摘しています。彼らは政治や社会、歴史に「あらゆることに無知で無関心」なため、参政党が打ち出す「日本を守る」「子どもを守る」といったキャッチフレーズの裏にある具体的な政策や理念が、極めて偏った非立憲的・排外的思想と結びついていることに気付かない傾向があります。彼らにとって、「移民反対がやがて移民排斥に繋がったり、自国や自国民の美化が外国人の排除に繋がったりするかもしれない」という自覚がほとんどなく、「差別とは何か、排外とは何かという思考訓練ができていない」ため、「生まれたての赤ちゃん」のように政治的免疫やイデオロギー的耐性がないと辛辣に批判しています。