自民・公明の政府与党は、12月1日、急速に進む少子高齢社会の進展の中で、国民皆保険を堅持し持続可能な医療制度を実現するため、医療制度改革の大綱をまとめました。来春の通常国会に関連法案が提出される予定です。
●急増する医療費、国民負担の増加懸念
病気やけがの治療のために医療機関に支払われた国民医療費は1985年度の16兆円から人口の高齢化に伴って急増し、99年度に30兆円を突破しました。2003年度は、前年度比1.9%増で過去最高の31.5兆円に達しました。
厚生労働省の推計によると現行制度のままだと、国民医療費は15年度に49兆円、25年度には69兆円と現在の倍以上に膨らむとされています。国民医療費の財源の約8割は、自己負担と保険料(国民負担)ですから、このままでは将来、過大な負担増をもたらすことになります。
これまで介護保険制度や高齢者の1割負担などが導入されてきましたが、医療費の増大傾向に歯止めがかかりません。その主な要因は、高齢化の進展に伴う老人医療費の増大です。03年度の国民医療費のうち、老人医療費は3分の1強を占めています。年齢別に見ると、65歳以上の占める割合が50.4%を占め、一人当たり医療費では65歳未満の4.3倍に達しています。
病気の中では、糖尿病や高血圧症、高脂血症など生活習慣病の患者・予備軍の増大が懸念されています。生活習慣病はがんや心臓病、脳卒中など高額な医療を必要とする病気につながります。03年度の医療費のうち生活習慣病を遠因とする病気が約3割に達し、死亡数の約6割を占めています。また、医療費を押し上げる要因として、諸外国に比べ突出して長い入院期間(平均在院日数)が指摘されています。平均在院日数は、アメリカの6.7日、フランスの13.5日などに比べ、日本は36.4日(2003年)と長期に及んでいます。
●予防重視の新制度を導入
政府・与党がまとめた大綱は、(1)安心・信頼の医療の確保と予防の重視、(2)医療費適正化の総合的な推進、(3)超高齢社会を展望した新たな医療保険制度体系の実現――を制度改革の柱に据えました。「安心・信頼の医療」に関しては、医師不足が深刻化しているへき地や小児科など特定診療科について医師確保策を総合的に進めます。患者が医療を選択しやすくするため、都道府県による情報提供を制度化し、病院などに医療費の内容が分かる領収書の発行も義務付けます。
(1)「予防の重視」とは、発病後の治療に重点を置いてきた医療から、病気にならないための予防を重視した医療へ転換することです。特に生活習慣病については、都道府県の健康増進計画で運動、食生活、喫煙などに関する目標を設定し、生活習慣の改善に向けた国民運動を展開します。
(2)「医療費の適正化」に関しては、糖尿病などの患者・予備群の減少率や平均在院日数の短縮といった目標を定めた基本方針と、それを踏まえた「医療費適正化計画」(5年間)を国が策定します。基本方針を踏まえ都道府県も同計画を策定し、必要な取り組みを強化します。
(3)「超高齢社会を展望した新たな医療保険制度」を構築するため、75歳以上の後期高齢者について、08年度に独立した医療保険制度を創設します。この制度は保険料を市町村が徴収し、都道府県単位で全市町村が加入する広域連合が財政運営に責任を持つ仕組みにします。併せて、65~74歳の前期高齢者に関しては、保険者(市町村)の間で生じている医療費負担の不均衡を調整する制度を創設し、老人保健制度を廃止します。現行の国民健康保険、政府管掌健康保険、健康保険組合に関しては、都道府県単位を軸に保険者の再編・統合を進め、一元化をめざします。
●少子対策で小学校入学まで2割負担に
70歳以上の窓口負担に関しては、現役並み所得者(夫婦2人で年収620万円以上、08年8月からは同520万円以上)の現行2割負担を06年10月から3割へ引き上げます。また、療養病床の70歳以上の入院患者について食費・居住費を自己負担に切り替えます。低所得者に対しては、別途負担軽減策を実施します。
70~74歳の中低所得者の窓口負担は、現行の1割を08年度から2割に引き上げますが、06年10月から年収が年金80万円以下の低所得者や住民税非課税世帯(夫婦で夫の年収が212万円以下、単身者は155万円以下)の自己負担の上限(外来で月額8000円)を据え置きます。69歳以下は現行通り3割を維持し、75歳以上の中低所得者についても1割のままにします。
一方、3歳未満に適用されている軽減措置(現行2割)が、公明党の主張で08年度から小学校入学前まで拡大されることになりました。さらに、出産育児一時金は06年10月から現行の30万円を35万円に引き上げます。
子育て支援以外にも、公明党の提言が大綱の随所に反映されました。例えば、医療制度改革の原案では、外来診療の一部を保険対象外とする保険免責制度の導入など、かなりの負担増が盛り込まれていましたが、公明党の反対で退けられました。
すべての入院患者の食費・居住費を自己負担化する案に関しても公明党が一般病床への適用に反対し、療養病床に限定させました。また、当初の厚労省提案では、70歳以上のすべての高齢者の窓口負担を2割にするという内容でしたが、公明党の主張で75歳以上を1割負担にとどめることができました。
(公明新聞2005/12/19付けの記事を中心にまとめました)