
2026年に開催されるアジア競技大会・アジアパラ競技大会に向けて、大会運営の新たな試みとして注目を集めているのが、名古屋港ガーデンふ頭に整備される「移動式木造住宅」、いわゆる“ムービングハウス”の導入です。
この移動式住宅は、選手団の利便性向上や各国選手との交流促進、さらには運営の効率化を目的に設置されます。約2,000人を収容可能な居住スペースに加え、選手団オフィスやウェルカムセンター、ダイニングホールなどの共用施設も併設される予定で、まさに“動く選手村”とも言える規模と機能を備えています。
この施設の整備を担うのは、日本ムービングハウス協会の会員である株式会社アーキビジョン21と、家具・インテリア業界大手であり大会の公式パートナーでもある株式会社ニトリが構成する共同企業体です。特命随意契約による正式な契約のもと、2025年5月から2027年3月末までの期間で整備・運用・撤去が行われる予定です。
ムービングハウスとは、工場で精密に製造された高性能な木造住宅を、必要な場所に運搬・設置できる可動式の住まいです。その高い居住性能と機動性を活かし、能登半島地震などの被災地では仮設住宅として高く評価され、住民に安心と快適な住環境を提供してきました。
また、コロナ禍においてもその実力が発揮されました。茨城県や千葉県では、ムービングハウスが臨時の医療施設として活用され、感染者の隔離や医療体制の維持に大きな役割を果たしました。このように、災害対応や医療体制の強化といった非常時の社会課題にも柔軟に対応できることが、ムービングハウスの大きな魅力となっています。
今回のアジア大会では、名古屋市内で競技に参加する選手たちの滞在拠点として、名古屋港ガーデンふ頭のムービングハウスが活用される計画です。こうした拠点の集中によって、選手団の本部機能が一元化され、円滑な大会運営が可能となります。
この取り組みは、単なる仮設施設の設置にとどまらず、持続可能な社会インフラや災害対応のモデルケースとしても注目されるでしょう。今後、地域活性化や地方創生、さらには防災・減災の観点からも、ムービングハウスの利活用がさらに広がっていく可能性があります。
2026年のアジア大会は、スポーツの祭典であると同時に、これからの住まいと地域支援のあり方を問い直す舞台にもなりそうです。名古屋港に立ち並ぶムービングハウスが、日本発の新しい暮らしのかたちとして、世界の目を惹きつけることを期待したいと思います。