高額療養費負担軽減に関しての話題をもう一つ。
高額療養費の負担限度について、70歳未満の中間所得層を3段階に細分化し、負担を軽減する政府の方針は高く評価できます。
この点については、公明党が昨年夏の参院選マニフェストや2010年12月に発表した提言「新しい福祉社会ビジョン」に盛り込んだ高額療養費の改善策に沿った内容といえます。
がんなどで療養が長くなり、高額な医療費がかかる人もいらっしゃります。最近は抗がん剤でも良いものが出てきました。反面、こうした新薬は値段が高いので、長い間だと、高額な自己負担になってしまいます。こうした点からも3段階に分かれれば、恩恵を受ける人は多くなります。
さらに、年間の負担に上限を設けることについても、一定の前進です。月額では高額療養費制度が適用されるほど医療費はかからないが、長期にわたって療養しなくてはならない患者は重い負担が続くという問題がありました。2カ月に入院がまたがる場合なだ、自己負担が倍程度の膨らむ場合もあります。したがって、年間上限を定めれば、より多くの人が高額療養費制度を使えるようになるので、この点も評価できます。
しかし、負担軽減策とセットで浮上している「受診時定額負担」の導入案については、唐突な議論であり賛成することはできません。
高額療養費制度見直しの財源(約3600億円)確保のため、外来受診の際の窓口負担に一律100円を上乗せする案が出されました。こちらは大きな問題です。この制度は初診であれ再診であれ、その都度、100円の負担をすることになります。
例えば、70歳未満(3割負担)の人は、医療費が500円の場合、1500円が自己負担になります。これに100円プラスになるので合計1600円の負担になります。
2002年の改正健康保険法の付則には「将来にわたって7割の給付を維持する」と明記されています。つまり「3割負担以上にしない」と法律で決まっているのです。簡単に、その負担を超えることは看過できません。
だれもが、病院に来るたびにプラス100円の負担をすることになると、本来は医療が必要な人も受診を控えてしまうことにつながりかねないからです。
現在、70歳以上の医療費の窓口負担は1割ですが、高齢になるほど複数の病気にかかり、受診回数が多くなる傾向があります。毎回、100円多く負担することになるので、受診抑制につながる危険性は否定できません。
早期発見、早期治療ができれば、それだけ医療費が軽減できますが、受診抑制する人が増えれば、重症化してからの受診となる可能性もあります。国民の健康保持や医療費削減の観点からも問題だ。日本医師会なども同様の趣旨で批判しています。
本来、医療費は国民全体で支え合うというのが基本的な考え方です。しかし、高額療養費を見直す財源を、受診時定額負担で充てるという発想は、病気を抱えている人同士で財源確保のやりとりをするようなものであり、基本的な考え方が間違っています。
―受診時定額負担に反対する署名運動のお願い―
3月11日に発生した東日本大震災は未曾有の国難であり、原子力災害は今なお進行中です。被災地には、当然受けることができるはずの医療がありません。
また、金融危機は、わが国の経済も直撃しました。雇用回復は見通せず、家計は厳しさを増しています。
このような中、政府は、病院や診療所にかかったときに新たな負担を求める「受診時定額負担」を提案しました。現在、若い方は医療費の3割、75歳以上の多くの方は医療費の1割を負担しています。政府案は、このうえ、受診するたびに新たに100円を徴収しようとしているのです。
医療が高度化し、先進的な技術や薬剤を使用することによって、病気が治るようになっています。こうした技術や薬剤は高額であるため、患者さんの負担軽減が急務です。政府は「受診時定額負担」の収入を、高額療養を受ける患者さんの負担軽減に充当しようとしています。しかし、別の病気で治療中の患者さんに負担を求める考え方は理屈がとおりません。みんなで支えあう健康保険なのですから、保険料や税金でまかなうべきです。
また、政府は今のところ、受診するたびに100円を負担する提案を行っていますが、いずれ500円、1000円になっていくおそれがあります。所得の少ない方、受診回数の多い高齢者の方には大きな負担になります。受診を差し控え、手遅れになってしまうことにもなりかねません。
日本は、いつでも、どこでも、誰でも同じ医療を受けることができる国民皆保険を守ってきました。日本人の健康長寿は世界的にも高く評価されています。しかしながら、今回の「受診時定額負担」は、所得によって受けることができる医療に格差をもたらすことになり、国民皆保険の崩壊につながるものです。私たちは、「受診時定額負担」の導入を阻止するため、強力に国民運動を展開します。
つきましては、皆様方のご協力の下、一人でも多くの国民が、運動にご参加下さいますよう、ご理解とご支援をたまわりたく、心よりお願い申し上げます。
平成23年10月11日
社団法人 日本医師会