暴力被害や貧困など、さまざまな困難を抱える女性を公的に支援する婦人保護事業が転機を迎えています。創設から60年を過ぎ、現場関係者は「制度と実態が合っていない」と指摘。自民、公明の与党両党も見直しの検討へ動き出しています。婦人保護事業の見直しについて、公明新聞9月6日付、7日付け記事よりまとめました。
婦人保護施設では、DV(配偶者からの暴力)被害者や帰る所がない女性などが生活し、自立に向けた支援を受けています。相談支援と並ぶ婦人保護事業の柱で、39都道府県に47カ所あります。2015年度は924人が利用しました。全国婦人保護施設等連絡協議会の横田千代子会長は、「生きづらさを抱えた女性たち。それは婦人保護施設で受け入れる人の特徴と言っていい」と語っています。
入所者は10代から高齢者まで幅広く、課題が多岐にわたる女性も多くいます。横田会長が施設長を務める東京都内の施設では、入所者22人(8月10日時点)のうち18人が精神科を受診し、17人に知的障がい(療育手帳取得者8人)があります。暴力被害経験は19人。うち14人は性暴力を受けています。全国の入所者を見ても、約4割で何らかの障がいや病気があります。
障がい、暴力被害、家庭不和などによる生きづらさを抱え、誰にも頼れず貧困状態に陥り、行き場をなくしてしまう――。こうした女性が保護され、入所している実態があると横田会長は指摘します。
一方、女性を取り巻く問題が複雑化し、心のケアや福祉的支援の重要性が増しているにもかかわらず、職員などの体制が追い付いていません。DV被害者に同伴して入所する児童への対応なども遅れています。
この背景には、もともと婦人保護事業が、1956年に制定された売春防止法を法的根拠としていることがあります。当初の目的は「売春を行う恐れがある女性の保護更生」。その後、大きな法改正のないまま対象者が広がり、今では支援を必要とする女性が抱える複雑な課題と、制度の枠組みとの間に大きな“隔たり”が生じています。
そうした“隔たり”を少しでも埋めようと関係者は懸命に努力を続けるていますが、横田会長は「支援現場の熱意と努力だけでは、制度が持ちこたえられないところにきている」と訴えます。
(写真は、婦人保護施設で横田千代子<左手前>の話を聞く公明党婦人保護事業見直し検討プロジェクトチーム:8月18日都内)
夜の繁華街を徘徊する10代から20代の女性たち。この中には、虐待や貧困のために帰る所がなく、援助交際(売春)などで生活の糧を得ている若者もいます。性暴力や予期せぬ妊娠、性感染症などの危険にさらされるケースも少なくありません。
こうした女性たちは婦人保護事業(18歳未満は原則、児童相談所が対応)の対象になり得るが、課題を一人で抱え込みやすく、行政との縁も薄いことから、彼女たちには支援が届きにくいのが実情です。
「女の子は簡単に助けを求めない。若いから何とかなると思っている。実際、夜の街に立てば声を掛けられ、売春でその日暮らしができてしまう」。困難を抱える若い女性を支援してきたNPO法人BONDプロジェクトの橘ジュン代表は、こう指摘します。
BONDは東京都内の夜の街で女性に声を掛けたり、相談に乗りながら一時保護などを行っています。公的な支援にも積極的につなげていますが、既存の制度には限界も感じています。
仮に保護したとしても、皆が婦人保護施設に入れるとは限りません。婦人相談所が入所を判断するからです。本人が入所を望まないこともあります。これには、DV(配偶者からの暴力)被害者の居所を加害者に知られないよう、施設が通信機器の使用を制限しているために、携帯電話を重要な“ライフライン”とする若者が入所を敬遠するなどのケースがあります。
家に帰れず、公的な支援制度にも当てはまらない子に生活の場を――との思いから、BONDは7月下旬、都内に自立準備のためのシェルター「ボンドのイエ」を開設しました。とはいえ、困難を抱えた若い女性の居場所は、まだ少ないのが現状です。橘代表は「保護した後の選択肢がもっとあるべきだ」と訴えます。
(写真は、NPO法人BONDプロジェクトの橘ジュン代表)
婦人保護事業とは、
実施機関として、①都道府県に設置される婦人相談所、②婦人相談所や福祉事務所に配置される婦人相談員、③都道府県や社会福祉法人が設置する婦人保護施設――があります。
DV被害者などには相談員・相談所が対応し、相談所が一時保護を行います。中長期的な支援が必要な場合は、相談所が婦人保護施設への入所措置を決定します。