防災士会の活動に参加し、地域ごとの避難計画づくりや図上避難訓練の現場に立っていると、いつも胸に湧き上がってくる思いがあります。それは、災害の瞬間、自分で避難を判断したり、すぐに動き出すことが難しい高齢者や障害のある方々を、地域として本当に支え切れる体制になっているだろうかということです。災害は待ってくれません。だからこそ一人ひとりに合わせて「誰が、どこへ、どう避難を支えるのか」を平時から具体的に決めておく「個別避難計画」が重要な役割を果たします。それは、言い換えれば“命を守る設計図”とも言えます。
(写真は10月25日北茨城市で開催された下桜井地区防災会主催のDIGワークショップの模様)
しかし実際に地域で活動していると、この制度が抱える悩ましい現実にも直面します。「避難行動要支援者」として名簿に載せる対象の条件が、市町村によって異なっているのです。国の定義が一本化されているからといって、現場が同じとは限りません。外から見れば似た状況の人でも、「この自治体では対象、隣の自治体では対象外」ということがいま起きています。独り暮らしであっても、周囲の支援が見込めると判断されれば名簿に載らず、個別計画も作成されません。本人が「自分は大丈夫」と答えれば対象から外れることもあります。逆に、民生委員さんが「この方は支援が必要だ」と思っても、その判断が十分に反映されない場合もあります。「同じ困りごとに対して、支援の手が伸びるかどうかは住所次第」というのは、命を守る施策として看過できません。
茨城県全体を見ると、個別避難計画の作成率は約30%と、全国平均14%を大きく上回り健闘していますが、自治体ごとのバラつきが大きいのが現状です。計画作成率が100%の自治体がある一方で、10%にとどまるところもあります。制度そのものが十分に知られていないこと、個人情報への不安から同意が得られにくいこと、支援者や職員の確保が追いつかないことなど、さまざまな課題が立ちはだかります。牛久市では、約1,500人の対象者が確認されている中、計画作成済みがわずか1人という状況にあり、丁寧な調整がいかに大変かを示しています。一方、北茨城市は実際に支援が必要な方に対象を絞ることで、限られた人員でも計画づくりを前進させ、全員分を作成し終えることができました。地域の実情を踏まえた工夫ひとつで未来は変えられる。そのことを教えてくれる事例です。
いま国は、2026年頃までに優先度の高い方から個別避難計画を完成させるよう求めています。「ハザードが高い地域に住む」「夜間独居で判断が難しい」「医療的ケアが必要」など、命に直結する要因を踏まえた優先順位の見える化が問われています。茨城県も、民生委員やケアマネジャー、自治会と連携しながら支援者確保に動きだしています。制度を正しく理解していただくこと、日頃から顔の見える関係をつくっておくことが、本当に必要な支援につながります。
私はこの取り組みは行政だけに任せるべきものではなく、住民同士のつながりで育てていく「地域防災」そのものだと考えています。制度を知ること、声をかけること、「私たちの地域は誰を支えなければならないのか」と関心を持つこと。ほんの少しの気づきが、将来の命を守る準備につながっていきます。防災士会としても、図上避難訓練を通して地域の中にある課題を共有し、支え合いの環を広げる役割をしっかり担っていきたいと思います。
「誰ひとり取り残さない避難」の実現へ。
私たちが暮らす地域の将来を守るために、できることを一歩ずつ、確実に進めてまいります。
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