アメリカは昨年(2008年)の5月から景気刺激策として、「税還付小切手」を各世帯に配布しました。具体的には、一定の所得以下の国民に、単身世帯で最大600ドル(約6万2400円)、夫婦世帯で同1200ドル(約12万4800円)、17歳未満の子どもがいる世帯には子ども1人あたり300ドル(約3万1200円)を還付(または給付)するという内容です。事業の総額は1520億ドル(約15兆8000億円)で、多くは各世帯に小切手を郵送する方法で実現されました。なお、この「税還付小切手」は「刺激金(tax-free economic stimulus checks)」とよばれています。(昨年5月の為替レートを1ドル104円として換算しました)
これが、不況対策としてはスタンダードな政策として位置づけられている「給付つき税額控除」の典型的なパターンといえます。
このアメリカの「税還付小切手」について、1月26日付の産経新聞【正論】に、社会学者の加藤秀俊氏が「『給付』を『寄付』にできないか」との一文を寄せています。
明快な米国の「刺激金」加藤氏の論旨は非常に明確で、その意見には賛同するところですが、基本的な部分で事実の誤認があるようです。それは、「とにかく全員に小切手がとどいたのである。所得にも年齢にも関係はない。とにかくこれを使ってすこしでも景気を刺激しましょう、というのがその趣旨だから単純明快である」と記述に対して、本文の最後に「【訂正】本文にある米国の『刺激金』には15万ドルの所得制限がありました」との編集部の特記事項が記されています。この論文の大前提を否定してしまっては、説得力が減退してしまいます。
産経新聞【正論】(2009/1/26)
昨年の春から夏にかけて、アメリカ国民はひとりの例外もなく政府発行の「刺激金」という名の小切手を受け取った。金額はひとりあたり300ドル。事情によっては倍額の600ドルということもあるが、とにかく全員に小切手がとどいたのである。所得にも年齢にも関係はない。とにかくこれを使ってすこしでも景気を刺激しましょう、というのがその趣旨だから単純明快である。
小切手は社会保障番号のケタ数の順序で整然と郵便でとどいた。ひとり300ドル。いまの為替レートでいえば3万円たらずだが、それでもちょっとした買い物ができる。小旅行もできる。それがどの程度、アメリカ経済に影響したかは知らない。しかし、政府発行の小切手が郵送されてくれば、それだけでかなりの心理的衝撃になったことはたしかだ。
基礎になっているのが社会保障番号だから、年収数億円の富豪にも、裏町に暮らす失業者にも平等に配られた。ブッシュ前大統領だって、ビル・ゲイツ氏だって受け取ったはずである。
このことを日本の報道機関はほとんどとりあげなかったが、いま論議沸騰の「定額給付金」というのも、もともとはアメリカの「刺激金」とおなじ性質のものであったのではないか。さいしょからその趣旨をはっきりさせて、おカネの流れを「刺激」するためのものであることを周知徹底しておけばよかった。ほんのちょっとだが、これをみんなが使えば社会的な血行不良がよくなるだろう、という金融政策の一部なのである。(以下略)
この刺激金の金額や所得制限には、詳細な計算式が用意されています。
元衆議院議員の笹山登生氏のブログ「定額給付金の所得制限-アメリカではどうだったか?」に、その詳細が説明されていますので、<続きを読む>以下に引用させていただきます。
いずれにせよ、アメリカなど欧米諸国では、給与、不動産所得(地代・家賃等)、株の配当等全ての所得を一元的に把握し課税する制度が整備されているから、こうしたきめ細やかな支給額や限度額の設定が可能となるわけです。 こうした制度を持たない日本が、緊急の経済対策を打とうとすると国民全員に一定額を還付(または給付)し、所得制限を設けない「定額給付金」制度に行き着くわけです。
定額給付金は、日本版「刺激金(tax-free economic stimulus checks)」制度だと言えると思います。
定額給付金の所得制限-アメリカではどうだったか?
Sasayama’s Weblog(2008/11/8)
アメリカの税還付小切手(Tax Rebate Check)においては、所得制限を、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )でない場合とカップルの所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )である場合とで、差別化した。
しかも、段階的廃止範囲(Phase OutRange)として、所得制限の適用者と非適用者との間に、グレーゾーンの緩衝帯を設けた。
具体的には、下記のとおりである。税還付小切手配布の非対象者とグレーンゾーン者(限定的対象者)
1.税還付小切手(Tax Rebate Check)配布の非適用者
(1)個人で、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )でない場合
修正総所得(AGI=Adjusted Gross Income )が年間7万5000ドル以上
(2)カップルで、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )である場合
修正総所得(AGI)が世帯総所得で年間15万ドル以上
2.税還付小切手(Tax Rebate Check)配布の段階的廃止範囲の対象者(限定的対象者)
(1)個人で、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )でない場合
修正総所得(AGI)が年間7万5000ドルから8万7000ドルの範囲にあるもの
(2)カップルで、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )である場合
修正総所得(AGI)が世帯総所得で、年間15万ドルから17万4000ドルの範囲にあるもの税還付小切手(Tax Rebate Check)の総受取額
次の三つの部分からなる。
(対象者は上記の「1.税還付小切手(Tax Rebate Check)配布の非適用者」該当者を除いたもの)
1.個々人の分(600ドル受領)
2.こども(被扶養者、17歳以下)、または、年間修正総所得が3000ドル以下のものの分(300ドル受領)
3.段階的廃止範囲(Phase Out Range)対象の分
(上記の「2.税還付小切手(Tax Rebate Check)配布の段階的廃止範囲の対象者(限定的対象者)」該当者)
(支給対象の年間修正総所得をオーバーした部分について、5パーセント分を乗じた部分を控除して受領たとえば
個人で8万7000ドルの場合は、(87000ドル~75000ドル)×0.05=600ドル
実際の支給分=本来の支給分600ドル-本来の支給分から減じる部分600ドル=0個人で8万ドルの場合は
(80000ドル-75000ドル)×0.05=250ドル
実際の支給分=本来の支給分600ドル-本来の支給分から減じる部分250ドル=350ドル)受け取りうる税還付小切手の総額=1+2-3
例
個人で、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )でない場合の例
1.子供がいなくて、Phase Out Range対象者でない場合
1のみ適用
2.子供がいなくて、Phase Out Range対象者の場合
1と3が適用
3.子供がいなくて、Phase Out Range対象者でない場合
1と2が適用
4.子供がいて、Phase Out Range対象者の場合
1と2と3が適用カップルで、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )である場合の例
1.修正総所得(AGI)が世帯総所得で、年間15万ドル以下の場合(600ドル×2=1200ドル受領)
2.修正総所得(AGI)が世帯総所得で年間3000ドル以上の場合(300ドル×2=600ドル受領)退職者の場合
年金収入が年間3000ドル以上の場合(単身者の場合は300ドル受領、カップルの場合は、600ドル(300ドル×2)受領
退役軍人の場合
障害者給付金(disability payment )の給付を受けている者は、対象
上記をまとめると下記のようになる。
個人で、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )でない場合
?修正総所得(AGI)が750000ドル以下の場合
受け取りうる税還付小切手の総額=600+(被扶養者の数×300)
?修正総所得(AGI)が75000ドル以上87000ドル以下の場合
受け取りうる税還付小切手の総額=600-〔(修正総所得(AGI)-75000)×0.05〕+(被扶養者の数×300)カップルで、所得税の夫婦合算申告(married filing jointly )である場合
?修正総所得(AGI)が150000ドル以下の場合
受け取りうる税還付小切手の総額=1200+(被扶養者の数×300)
?修正総所得(AGI)が15万ドル以上17万4000ドル以下の場合
受け取りうる税還付小切手の総額=1200-〔(修正総所得(AGI)-15万)×0.05〕+(被扶養者の数×300)上記の「被扶養者」とは
?17歳以下のこども
?年間修正総所得が3000ドル以下の者
などを指す。以上が、アメリカで、今年、日本と同様の消費刺激策の一環として行われた税還付小切手(Tax Rebate Check)の所得制限等スキームの概要である。