厚生労働省は来年度から、介護保険の在宅サービスの一つである「デイサービス」に時間延長や宿泊機能を追加する「お泊まりデイ」を、新サービスとして始める方針を決定しました。すでに、厚労省は11年度予算の概算要求で全国2000カ所のデイサービス事業所を対象に、8000人分の受け入れを可能とする施設整備費100億円を要求しています。スプリンクラーの設置など、宿泊可能な施設として整備するための費用です。
家族の負担を軽減するため、日中のデイサービス後、利用者の全額自己負担で泊まりなどを提供する事業者が増えており、こうした先行する介護サービスを追認する形となりました。
この種のサービスで有名な事業者に『茶話本舗』があります。茶話本舗は、株式会社日本介護福祉グループが運営しており、2007年6月に設立されました。直営並びにフランチャイズ方式で茶話本舗を全国に展開し、今年8月時点で31都道府県に269カ所開設されています。民家の空き家などを借り受けて、小規模の事業所で提供する1泊800円という低価格のサービス料金を強みに、開業以来3年で急成長しました。
介護保険の制度設計の議論を飛び越えて決まった“お泊まりデイ”
しかし、このお泊まりデイについては、関係者から厳しい反対の意見も出されています。
現行の介護保険サービスで、宿泊も可能な在宅サービスに「小規模多機能型居宅介護サービス」があります。デイサービスや訪問介護に加え、泊まりも可能で、2006年度から導入されました。今年6月時点で2473事業所に約4万人の利用者があります。10月4日付けの毎日新聞では、全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会の川原秀夫代表の「住み慣れた地域で暮らすために小規模多機能サービスを作ったのに、お泊まりデイができれば、小規模多機能は増えていかない可能性もある。国の対応は場当たり的だ」、「お泊まりデイを制度化すれば、事業者は空いているベッドを埋めようとして、結局、都市部のショートの現状と同様、緊急時には泊まれなくなるのではないか」とのコメントが掲載されています。
また、日本医師会は9月8日の定例記者会見で、三上裕司常任理事が、以下のようなお泊まりデイの問題についての見解を発表しました。
これに対する日医の見解として、「在宅、中重度者へのレスパイトケアの拡充は多いに必要だが、通所介護の施設に泊まるとなると、質の確保のため、厳しい施設基準や人員配置基準が必要になり、機能上も効率上も無理である」と述べ、通所施設に消防用設備の設置など補助金の手当てをするより、病院や有床診療所、老健など、医療機能を持つ施設でのショートステイを活用するべきだとの姿勢を示した。
また、現在のショートステイが予約制とされているため、緊急時対応が出来ないことが問題だとして、緊急ショートステイ、小規模多機能サービスの弾力的運用の重要性を強調。劣悪な環境での宿泊になりかねないことから、通所施設における安易な宿泊に警鐘を鳴らした。
長妻昭厚生労働相(当時)の“鶴の一声”で介護保険部会の議論を飛び越え、現実の問題となった“お泊まりデイ”。朝令暮改を繰り返した介護保険行政の中で最大の汚点とならないか、不安は募るばかりです。