世界のGDP(国内総生産)の約4割、人口8億人の巨大な経済圏をつくる環太平洋連携協定(TPP)。 その承認案と関連法案が、11月10日衆院本会議で自民、公明の与党両党と日本維新の会の賛成多数で可決、参議院に送付されました。参議院でも粛々と審議され、今国会での早期の承認・成立を図るべきです。
TPPはアメリカのオバマ政権が主導し合意に至らせた協定であり、トランプ氏の支持基盤、共和党も自由貿易を推進する立場です。アメリカ大統領選の結果を受けて公明党の山口那津男代表が「米国の責任感を期待したい」と語ったように、アメリカの国益にもかなうはずです。アメリカの決断を促す上でも、日本は批准しておくべきなのです。
そもそもTPPは、日米やオーストラリアなど太平洋を囲む12カ国が、輸入品への関税の撤廃や引き下げだけでなく、知的財産権の保護など投資や企業進出に関するルールを幅広く定めたものです。人口減少に直面する日本にとって、成長著しいアジア太平洋地域の需要を取り込むことは必要不可欠です。日本の中長期的な経済成長の基盤となります。
今後、論戦の舞台は参議院に移ります。改めて指摘しておきたいことは、政府がTPPの重要性について国民の理解を深める努力を続けることが重要です。とりわけ日本にとってのメリットを丁寧に説明することが必要です。
例えば、工業製品の99.9%の品目で関税が撤廃されるため、自動車など輸出は拡大への追い風となります。消費者にとっては、外国産農産物や輸入品の値下がりが期待できます。世界銀行の試算によると、TPPは日本に約13兆円ものGDP効果をもたらすのです。
国内の農林水産業への影響を指摘する声もあります。この点、農水産物の関税撤廃の例外は多く確保されています。さらに政府は公明党の提言を踏まえ、TPPに関する政策大綱を策定し、生産者の経営の安定化などを積極的に推進しています。国内対策にもしっかりと手を打ち、関係者に安心を与えて行くことが大事です。
アメリカの動向
一方、アメリカの動向を確認しておきます。大統領選挙で勝利したトランプ氏は、選挙戦を通じてTPPは「最悪の協定だ」と批判しており、大統領に就任すれば、直ちにTPP協定からの離脱に取り組むと主張してきました。また、トランプ氏はアメリカがカナダ、メキシコと締結しているNAFTA=北米自由貿易協定についても「アメリカから雇用を奪っている」などと批判し、一貫して自由貿易に反対する姿勢を鮮明にしてきました。
こうしたことから日本政府内には、トランプ氏の勝利で今後、TPP協定の発効は不透明になるのではないかという見方が広がっています。
協定が発効するためにはアメリカ議会の承認を得ることが欠かせません。オバマ大統領がレームダックと呼ばれる残りの任期期間中に必要な法案を議会に提出し、承認を得て協定発効に道を開くことは理論的には可能です。日本政府としてはオバマ政権にTPP協定の手続きを進めるよう要請していく考えです。
しかし、大統領選挙にあわせて実施された連邦議会の選挙でも、トランプ氏と同じ共和党が上院、下院ともに多数派を維持することが確実となるなか、TPP協定の法案を通す機運が高まるかについては日本政府内でも懐疑的な見方が出ています。
共和党のマコネル上院院内総務はトランプ氏が次の大統領に選ばれたことを受け、「新しい大統領がTPPに反対していることは明らかだ。 TPPの関連法案が年内に議会で採決されることはない」と述べました。 大統領選挙に合わせて行われた上下両院の議会選挙でも、多数を占めた共和党の上院トップが、TPPの関連法案への対応について厳しい認識を示したことで、来年1月までのオバマ大統領の任期中にTPPの発効に必要な、アメリカ議会の承認を得るのは極めて難しい情勢です。
TPP発効の条件
日本やアメリカなど12か国が参加したTPP協定の署名式は、今年(2016年)2月4日です。協定文書のとりまとめ役を務めたニュージーランドのオークランドで行われました。各国は、現在、協定の発行に向けて国内手続きを進めています。
TPP協定は、署名から2年以内に参加する12の国すべてが議会の承認など国内手続きを終えれば発効します。しかし、2年以内にこうした手続きを終えることができなかった場合には、12か国のGDP=国内総生産の85%以上を占める少なくとも6か国が手続きを終えれば、その時点から60日後に協定が発効する仕組みになっています。
日本のGDPが17.7%、アメリカが60.4%と、この2国だけで加盟国の全体の78%に達するため、日本とアメリカのほかにGDPが比較的大きな4か国が手続きを順調に終えれば、TPPは2018年の4月に発効することになります。
逆にアメリカか日本が批准しない場合は、GDPの85%に達しないことになり、TPP協定は発効できなくなります。