
7月20日、水戸市五軒町にある水戸芸術館現代美術ギャラリーを訪れ、現在開催中の展覧会「日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」を鑑賞しました。東京藝術大学の学長であり、数々のアートプロジェクトを手がけてきた日比野さんの、60年以上にわたる芸術活動を振り返る回顧展です。
展覧会のタイトルにある「ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで」は、幼少期に一人きりになった記憶と、そこから他者とのつながりを求めてきた創作の歩みを象徴しています。日比野さんは、「絵を描くのは、だれかと会いたいから」と語ります。この思いは、まさにすべての作品の根底に流れていると感じました。
今回の展示では、1980年代に段ボールを素材にして一世を風靡した作品群を皮切りに、演劇美術、地域参加型アート、そして福祉や医療と結びついた実践的な活動まで、実に170点以上が並びます。ですが、日比野作品が真に語りかけてくるのは、展示のボリュームだけではありません。
私が最も心を動かされたのは、作品と鑑賞者との「距離の近さ」です。日比野さんの作品には、観る側が「立ち止まり」「考え」「語りかけたくなる」ような温もりと柔らかさがあり、それが静かに心を開かせてくれます。段ボールという身近な素材もそうですが、絵や言葉、映像、インスタレーションのすべてにおいて、日比野さんは「観る人と作品が対等に向き合える場」を丁寧につくっていると感じました。
特に楽しかったのは、「橋」をテーマとした新たなインスタレーション。会場ではワークショップで制作された多彩な「橋」が集められ、空間の中で実際につながっていく光景が見られました。この「橋」は、まさに誰かと誰かを結ぶもの。作品に参加した人も、ただ観ている人も、気づけばその橋の一部として存在しているような、そんな一体感がありました。
日比野さんは、現在、東京藝術大学長として後進の育成にも尽力しながら、岐阜県美術館や熊本市現代美術館の館長も務めています。アートを単なる表現にとどめず、社会や人間関係の中に生かしていこうとする姿勢は、今の時代においてとても貴重なものです。
展覧会は10月5日まで開催されています。この夏、水戸で「だれかとつながる」アートの旅を、ぜひ体感してみてください。

日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで
会期:2025年7月19日(土)~10月5日(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜日(ただし7/21、8/11、9/15は開館)、7/22、8/12、9/16
入場料:一般900円(高校生以下、70歳以上、障害者とその付き添い1名は無料)
お問い合わせ:029-227-8111
アートが「だれか」との対話を生み出すことを、あらためて感じさせてくれる展覧会です。どうぞ、お見逃しなく。