痛ましいJR福知山線の脱線事故の中で、救出活動や二重事故防止に市民の協力が際立っていることは、大きな救いです。
テレビや新聞で繰り返し報道されていますが、人命救護にまず駆けつけたのは、近くの日本スピンドル製造の社員100名あまりでした。組織だった救出活動や二次火災を防ぐための防火活動は、高く評価されています。企業イメージが好感され、GW中の5月6日の株価上昇率が東証1部でトップとなりました。
また、事故直後に通過予定だった特急「北近畿3号」を、踏み切りの非常ボタンを押して、緊急停車させたのは、現場近くをたまたま通りかかった47歳の一主婦でした。毎日新聞(2005/5/5付け大阪版社会面)の記事によると「一瞬の機転を利かせた女性は『事故の被害者をこれ以上増やさないように、との思いで必死でした』と振り返った」とありました。賢明な一女性の咄嗟の判断で、深刻な二重事故が回避されたことは、もっと評価されて良いと思います。
暗いニュースが多い中、こうした市民の献身的な行動には、国交省も含め、なんらかの敬意を表することが必要ではないでしょうか。
(写真はJRの踏切に設置された緊急通報用の非常ボタン)
工場の町、駆けつけた バールで扉開け、トラックでけが人搬送 尼崎JR脱線【大阪】
朝日新聞大阪版(2005.04.30夕刊)
一瞬で何百人もの死傷者が出た惨事に、警察や消防による救助の手はなかなか回らない。兵庫県尼崎市のJR宝塚線(福知山線)での脱線事故で、大きな助けになったのは、現場の近所に住み、働く人々だ。被災者同士で助けあった10年前の阪神大震災と、同じ光景だった。
敷地が事故現場に隣接する建築資材メーカー「日本スピンドル製造」の本社工場では、午前中の操業を停止し、100人以上の社員が医薬品や毛布を手に駆けつけた。
現場で社員らを指揮したのは、笹山常俊さん(51)。社員3人が、マンションにめり込んだ車両のわきに脚立を立てかけて上り、ドアをバールなどでこじ開けた。血だらけで泣きながら脚立を降りてくる女性4人に、笹山さんは「もう大丈夫です、足元に気をつけて」と声をかけた。
ガソリンのにおいがした。社員には消火器を持って来るよう指示。近くの踏切に見にきていた人たちには「手を貸せる人は中に入ってくれ」と大声をあげた。
笹山さんは震災時、同県西宮市の自宅で被災。生き埋めになった近所の人を力を合わせて助け出した経験があった。
スピンドルが大幅高、東証1部で値上がり率第1位
ロイター経済ニュース(2005年 05月 6日 金曜日 14:13)
[東京 6日 ロイター] 日本スピンドル製造<6242.T>が大幅高。14時05分現在、同社株は東証1部で値上がり率第1位となっている。とりわけ目立った材料は見当たらず、値動きの良さが材料になっている、という。
また、「JR西日本<9021.T>の事故で、現場近くにある本社工場の従業員が総出で救出作業を行い、それが企業イメージをアップさせた点をはやす声もある」(中堅証券情報担当者)といった指摘もあった。
JR福知山線脱線:「二重事故、防ぎたかった」 一瞬の機転、47歳女性が非常ボタン
毎日新聞(2005.05.05大阪朝刊)
尼崎脱線事故で、現場近くを通りかかった女性(47)が事故直後、現場南の約80メートルにある踏切に設置された非常ボタンを押していたことが分かった。対向の下り線の特急電車が踏切手前で急停止し、脱線電車との衝突による二重事故を免れているが、関連は不明。しかし、一瞬の機転を利かせた女性は「事故の被害者をこれ以上増やさないように、との思いで必死でした」と振り返った。
女性によると、脱線現場から南西約200メートルの線路沿いの路上で、「ドカン」という大きな音を聞いた。マンションから砂煙が上がっているのが見えたため、解体工事かと思ったが、速足で近づくにつれ、脱線した車両が目に飛び込んできた。
数十秒後、踏切に着いた。普段からよく通る道で、午前9時台は通過する電車が多いと感じていたことから、対向電車があるかもしれないと心配し、あわてて踏切の非常ボタンを押したという。
非常ボタンは踏切近くにある特殊信号発光機につながっており、ボタンを押すと光が点滅。列車に異常を知らせ、運転士は急ブレーキをかける。
直後に通過予定だったのは新大阪発城崎温泉行きの特急「北近畿3号」(4両、乗客約150人)。事故発生とほぼ同時刻の25日午前9時18分に尼崎駅を出発、事故現場の手前約100メートルで停止した。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会やJR西日本は、特急が急停止したのは、脱線電車が線路近くにある信号機を倒し、周囲の信号が自動的に黄色に変わったためとしている。
女性は「二重事故を防いだのかどうかは分かりませんが、とっさの行動でした」と話している。【勝野俊一郎】