1月17日、東京電力の西沢俊夫社長は、「料金の申請というのは、われわれ事業者としての義務というか、権利ですので」と語り、4月から大口の事業者向け電気料金を値上げすると発表しました。値上げ幅は平均で約17%。電気料金は燃料価格が上昇すると、自動的に値上げされるが、単価を改定する本格的な値上げは、1980年以来32年ぶりとなります。
東電は原発停止による電力需要の落ち込みを、火力発電の増加でカバーしており、天然ガスの調達拡大で燃料費が高騰しており、それを補うためというのが値上げの理由です。
新たな電気料金の単価は、特別高圧の事業者で1キロワットあたり2円58銭、高圧の事業者で1キロワットあたり2円61銭を、現行の電気料金単価に一律に上乗せしたものとなります。
対象となるのは、契約電力50キロワット以上の大口の事業者約24万社。この部分の値上げには政府の認可が不要で、上げ幅は個別交渉となります。モデルケースでは百貨店やオフィスビルなどの大規模事業者向け(特別高圧)が18.1%アップ、スーパーなどの中小規模事業者向け(高圧)が13.4%アップとなる見込みです。
また、西沢社長は、家庭向け電気料金の値上げを3月の事業計画策定後にも申請したい考えも明らかにしています。3月に策定される事業計画には、国による東電への公的資金投入が盛り込まれることが予想されます。これに家庭用の電気料金値上げが認められれば、国民は電気料と税金という二重の負担を強いられることになります。
電力をはじめとする鉄道やガス、水道などの公益事業は「総括原価方式」と言われる方式で料金を決めています。電力であれば燃料費や人件費、修繕費などに事業報酬を加えた「総原価」を基に、料金が算出されます。供給安定化のため、事業者が損をしない仕組みとなっているわけです。
ただ、総括原価方式は費用削減などの合理化が進みにくい欠点があります。既に東電の経営実態を調査した政府の第三者委員会は、費用の見積もりを「過大」と算出しています。
特に再考すべきは人件費です。電力会社の従業員1人当たりの平均年収(残業代などの手当を除き677万円)は他の公益事業よりも高いばかりか、「3000人以上の企業」(635万円)をも大きく上回わります。電力会社が有する社会的役割を勘案しても到底、到底容認できません。
有識者会議の見直し案では人件費の上限を「1000人以上の企業」(543万円)と設定しています。電力会社はこの基準を真摯に受け止めるべきです。値上げの前に、まずは自身が「身を切る」姿勢を鮮明に打ち出すことを優先すべきです。
有識者会議は「オール電化」などPRを目的とした広告宣伝費や原発立地自治体への寄付金などについても総原価から除外するよう求めています。確かに、広告の受け手となる国民が広告宣伝費を負担するのはおかしな話であり、もっともな判断といえます。また、原子力発電所のある自治体に電力会社が提供した寄付金の総額は、これまでに1600億円以上に上っていることが、NHKなどの調査で判明しています。この寄付金は、発電事業に必要な費用として電気料金に組み入れられてきました。原発のある自治体には、国からの交付金や核燃料税などの税金、それに電力会社からの寄付金が、原発の建設や稼働に伴って入ってきますが、このうち寄付金については、公開の義務がないため、今までその実態がよく分かりませんでした。
東日本大震災をきっかけに、電力会社の経営実態が国民に明らかになってきました。電力各社は費用の見直しを通して、高コスト体質を改めることが重要です。総括原価方式の見直しになしに、電力料金の値上げを求めることは絶対に出来ません。