
「松のみどりは 太平洋に 昇る朝日で また映える
世界平和を こころに秘めて ともれ 明るい原子力」
これは、東海村で長く親しまれてきた「東海音頭」の一節です。かつて、原子力を「平和利用」の象徴と捉え、地域の誇りと未来の希望を込めて歌い継がれてきたこの歌詞。その「明るい原子力」が、今また大きな岐路に立たされています。
東海第二原子力発電所の再稼働をめぐる動きが加速しています。東海村の山田修村長が、再稼働を容認する意向を今月10日に村議会で正式表明する見通しとなりました。全国の原発立地自治体の中でも、首長が初めて「容認」を明言するというこの決断は、エネルギー政策を超えて、東海村という地域そのものの未来像に深く関わる問題です。

東海村ブランドの揺らぎと若者のまなざし
東海村は、戦後日本の科学技術を支えた「知の村」としての誇りを育んできました。原子力研究の先端地として、研究者や技術者が集まり、国の未来を支える拠点となってきました。しかし、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故を機に、原子力をめぐる認識は大きく変わりました。避難計画の不備、安全性への懸念、信頼の揺らぎ。これらは村の「誇り」を少しずつ蝕み、暮らす人々の心理にも影を落としてきました。
特に深刻なのは、若年女性の流出です。国勢調査によると、東海村における若い女性(15~39歳)の人口は、1995年(平成7年)の5,699人をピークに減少傾向にあり、2020年(令和2年)には4,398人へと約23%も減っています。
再稼働が現実のものとなれば、原子力災害への不安が再燃し、子育て環境や教育・医療への信頼性が厳しく問われます。「ともれ 明るい原子力」の理念と、若者世代が求める「安心と自由を大切にする暮らし」との間のギャップが広がる懸念があります。
未来への希望は、「共に考え、共に創る」まちづくりにこそ
東海村の未来を明るいものとするためには、単に「原子力の是非」を問うのではなく、その先にある「人間の暮らし」を見つめ直すことが大切です。再稼働を前提とするならば、以下のような視点でのまちづくりが求められます。
- 科学の村としての強みを活かし、「子どもが未来に希望を持てる教育環境」の整備
- リスクを正しく伝え、住民とともに課題を解決する「共創の対話文化」の確立
- 女性が安心して働き、子育てできる社会インフラの構築
- 災害時の安全確保に向けた避難体制の再構築と信頼回復
つまり、再稼働の「是非」だけでなく、それにどう向き合い、どう「住民とともに未来をつくっていくのか」が、これからの東海村の真価を決定づけるのです。
あの歌に込められた願いが、今の世代の若者たちにも届くように――。
原子力の村から、人と暮らしの未来を描く村へ。
それが、今まさに東海村に求められている選択だと思います。