公明党が成立に全力で取り組んできた「生活困窮者自立支援法」が、4月から施行されました。仕事や健康などで深刻な問題を抱えた人を生活保護に至る前に支え、新たな人生への挑戦を後押しする法律です。この法律に基づく自立支援制度を生かすには、自治体をはじめ関係者の理解と積極的な取り組みが不可欠です。
生活困窮者自立支援制度は、生活する上でさまざまな困難を抱える人を地域で自立して生活できるように、個々の状況に応じ、その人の主体性を尊重しながら、相談・支援する制度です。「生活困窮」と一口にいっても、経済面や家族関係、精神的な問題など多くの理由があり、複雑に絡み合っている場合もあります。
支援が必要な人たちは、なかなか声を上げられず、支援にたどり着けなかったり、既存の制度では救済されず、社会的に孤立したりしているケースが少なくありません。
公明党は結党から半世紀にわたり、生活者に寄り添い、支え続けてきました。今回の制度はいわば、公明党の精神を体現するものであり、地域の最前線で生活に困っている方を支えてきた民間団体の熱い思いが結実した制度です。国も地方自治体もしっかり責任を持って、民間と協働体制で、生活困窮者を包括的に支援して行く必要があります。
この生活困窮者自立支援制度の特徴を一言で言うと、「人が人を支援する」ことに力を入れている点です。これまでは、生活困窮者支援というと、お金などの「給付」になりがちでしたが、今回は住宅に関する給付を除いて、それがありません。制度の軸は、相談者をいかに既存の給付制度に結び付けられるかというコーディネート(調整)機能なのです。
既存の制度に人を合わせるのではなく、人に合わせて柔軟に制度を活用できるようになったということです。
生活困窮者自立支援法に基づく主な制度
支援法における「生活困窮者」の定義は、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」となっています。しかし、その本来の意味は、単なる経済的な困窮状態に置かれた人ではないということが重要なポイントです。さまざまな悩みを抱えた人を、まずは幅広く受け入れる仕組みになっています。
例えば、以前、役所の窓口に「ネコの飼い方」で相談に来た人がいたそうです。通常なら門前払いされてもおかしくない。でも、それに対応した職員は考えたのです。家族や近所の人に聞けば済むネコの飼い方をわざわざ相談しに来るのは、社会的に孤立しているのではないかと。実際、相談者の家を訪問すると、さまざまな問題を抱えていることが分かったそうです。どこに相談すればいいか分からない悩みにこそ、今回の制度で対応していかなければなりません。
まさに、どんな理由、つまり、どんな“入り口”から入っても支援の手を差し伸べられる。そこに人が伴走し、必要な支援につなぐということです。
ただ、懸念していることは、出会い、すなわちアウトリーチ(訪問支援)や早期発見という部分です。この制度は相談事業がベースになりますが、役所に窓口を置いて待っているだけでは、困窮者は相談には来ません。支援は、声掛けから始まり、中には何年もかけて自立に至る人が少なくありません。経済的困窮のみならず社会的に孤立している人は、相談に来ない、あるいは来られない人々です。
「相談しよう」という意欲すらない人たちもいます。どうやって、こちらから手を差し伸べていくのかということが課題です。
もう一つは相談後の“出口”の問題です。相談者の悩みを解決するために必要なサービスにつなげていくわけですが、出口戦略上、重要な就労準備事業や家計相談事業等を実施するかどうかは、自治体に任されています。いわゆる任意事業です。
積極的な自治体と、そうではない自治体との格差が生まれ始めています。昨年末の厚生労働省の統計では、約半数の自治体が初年度は任意事業を一つも実施しないと回答していました。
自治体が実施する事業をどう評価するかも課題です。自治体が国に提出する事業の報告書の書式を見ると、就業者が何人、増収が何人とか、数値化しやすい項目に偏っています。そこで、例えば第1に「就労」「増収」、第2に「つながり」「社会参加」、第3に「将来性」、第4に「地域創造」など評価を4類型程度にして、数値化しにくいけれども本人の自立に不可欠な要素を報告書に入れるべきです。
行政の制度である限り、一つの支援に対し「開始」と「終了」の区切りを定めざるを得ません。ところが、非正規雇用者が4割近くを占める現在、一度は就職して危機を脱しても、また失業して危機に陥ることは珍しくありません。
つまり、第2、第3の危機を想定した長期的な取り組みが必要なわけです。
そのような現状においては「問題をいかに解決できるか」というだけでなく、「相談者との関係をいかに保ち続けられるか」という「伴走型支援」が必要です。関係を保ち続けること自体が「相談」なのです。一度支援を始めた相談者とは、それこそ最期のみとりや葬儀まで付き合い続けることが必要なのです。生活困窮者支援は、まさに“終わりなき旅”とも言えます。
この制度を運用するのは行政や民間団体の関係者だけではありません。地域住民の参加も必要です。生活困窮者を支援することによって、地域のつながりを再構築していく。この制度は地方創生の基盤づくりにもつながります。
生活困窮者自立支援制度の先進的な事例として、大阪府豊中市のコミュニティソーシャルワーカー(CSW)制度があります。CSWは、制度の隙間を埋めるために、行政の課長クラスが集まって「ライフセーフティネット総合調整会議」を開催し、解決に向けた仕組みをつくり出しています。
行政はもちろん、社会福祉協議会や民間団体、保健師など、多くの関係者が参加し、情報共有や問題解決に向けた議論を行うことが大切です。困窮者の自立に向けた支援計画の評価・修正なども検討することで、より困窮者の実情に即した取り組みへ練り上げることが期待できます。品川区でも、今年の夏までにこうした協議会の設置をめざしています。
小規模な自治体にとっては、滋賀県野洲市の方式が参考になります。市役所内に設置された窓口が生活相談を一手に引き受け、住民税の滞納状況などの行政情報をもとに、生活困窮者の早期発見につなげています。
また、秋田県藤里町(人口約3600人)では、社会福祉協議会が住民を戸別訪問した結果、ひきこもりの人が113人に上ることが判明したそうです。そこから一般就労につなげる取り組みを推進しました。町村でも、相談者が窓口に来るのを待つだけでなく、アウトリーチ(訪問支援)を推進していくことが必要です。
人口の少ない自治体が全ての任意事業を実施するのは、予算的に厳しい面もあります。そこで、必須事業は各市区町村が行い、任意事業は都道府県がコーディネートして、複数の市区町村が集まった広域連合が担うという方式も考慮すべきです。
静岡県では、7つの市が集まって広域連合を形成しています。県が音頭を取り、予算については7市で応分の負担をしています。
自治体の任意事業の実施状況などを見ながら、都道府県が調整機能を果たすことも必要です。
(このブログ記事は、2015年5月21日、22日付けの公明新聞の記事をもとに作成しました)
生活困窮者自立支援制度
2015年4月施行の生活困窮者自立支援法に基づく制度。必須事業として、自治体に総合相談窓口の設置を義務付けた上で、相談者の自立に向けたプランを作成し、必要な就労支援や福祉サービスにつなぐ。離職などにより住居を失った人、または、その恐れのある人には家賃相当の給付金を一定期間、給付する。
一方、任意事業は、(1)就労に向けた訓練(2)ホームレスらへの宿泊場所や衣食の提供(3)家計に関する相談・指導(4)生活困窮世帯の子どもへの学習支援―など。その他、困窮者の自立支援の促進に必要な事業を行うことができます。