国民医療費は毎年約1兆円のペースで増加し続けています。このままでは、現在30兆円台の国民医療費が、2025年には60兆円を超えるという試算もあり、国民皆保険制度が崩壊するのではといわれています。このため政府は医療費適正化(正確には抑制か?)策を模索しています。しかし、全国を見渡すと、長寿県でありながら医療費が低い県が存在しています。
2002年度の一人当たり老人医療費の全国平均は73万6512円ですが、最高の福岡県は90万4564円で、最低は長野県の59万6480円となっています。一方、平均寿命をみると、長野県は男性が78.90歳で全国1位、女性は85.31歳で全国3位(2000年都道府県別生命表)と長野県は長寿ナンバーワン県です。この「低医療費で長寿」という現象は「長野モデル」と呼ばれ、医療関係者に注目されてきました。2月14日、井手よしひろ県議は、こうした長野県の現状を長野県庁と佐久市を訪ね、担当者から直接ヒアリングしました。
長野県庁では、社会部厚生課と衛生部保険予防課の担当者から、「長野モデル」の歴史と現状について説明を受けました。
長野県の医療費の水準が全国で最も低い理由は、①いつまでも健康であまり医者にかからない、②病気になれば家族が支える、③生きがいをもって暮らしている、④地域で健康を支える体制が整っている、などが上げられます。
①いつまでも健康であまり医者にかからない
平成14年10月時点の65歳以上の高齢者の受診率(高齢者10万人当たり何人が病院で診療を受けたかの割合)は、入院が2,494人(全国平均3,706人、全国順位47位)、外来が9,295人(全国平均11,481人、全国順位43位)となっています。平成15年の一般病床の平均入院日数が全国平均では28.3日であるのに対して、長野県は20.8日(全国順位47位)と最も短くなっています。
②病気になれば家族が支える
長野県は一人暮らしの高齢者の率が低く、家族が在宅福祉・医療を支えています。
治療が終わって退院してからも、地域の診療所や訪問看護ステーションなどが在宅医療に積極的に取組み、看護や介護をする家族を支えています。また、訪問介護やショートステイなどの在宅福祉サービスや、コモンズハウス(宅幼老所)も高齢者が地域・家庭で過ごせるよう支援しています。
その結果、自宅での死亡の割合が16.6%(全国13.0%)と全国で3番目の高さとなっています。
③生きがいをもって暮らしている
長野県は、高齢者の就業率が全国トップです。平成12年10月時点で、31.7%、全国平均は22.2%で、3割を超えているのは長野県のみです。働いているから元気なのか、元気だから働いているのか、「ニワトリが先か卵が先か」との議論ではありますが、農業に従事したり、シルバー人材センターなどで働く生きがいをもった高齢者が多いことは事実です。
④地域で健康を支える体制が整っている
長野県での保健予防活動の歴史は、昭和40年代からの「減塩運動」や「一部屋暖房運動」までさかのぼることができます。保健師(保健婦)やそれを補助する長野県特有の保健補助員制度、食生活改善推進員など地域で、健康を支える人たちの活動が大きな役割を果たしています。
また、佐久市の佐久総合病院、茅野市の諏訪中央病院など、地域医療の先進的病院が存在し、全国から優秀な人材が集まっていることも特筆されます。
ただし、こうした「長野モデル」も大きな曲がり角に差し掛かっています。2004年秋、社団法人日本病院会が03年の人間ドックの状況をまとめたリポートを公表しました。これによると長野県は糖尿病の兆候を示す「耐糖能異常」が21.0%で全国で5番目に多く、高血圧は19.7%で全国11位、肥満も25.4%で全国16位と高率でした。長野県でも、生活習慣病が無視できないほど広がりつつあることをしめす数字でした。
また、「長野モデル」に大きな役割を果たした保健補導員制度も、個人情報保護法が施行されてからは、補導員が健康診断の手伝いをする機会が制限されていると言われます。住民の病歴や、健康状態を聞くような、もはやできなくなりました。個人情報の保護という考え方が、地域医療や福祉に大きなブレーキをかけています。さらに、そもそも補導員の成り手が少なくなってきました。地域コミュニティーの崩壊はそのまま「長野モデル」崩壊に直結しかねません。
未だに一人当たりの老人医療費は全国最低をキープしていますが、「医療費の伸び率は全国的にも高い」という現実があります。