この通常国会には、住民基本台帳について、閲覧できる場合を公用や公益性の高い調査・研究などに限定し、事実上「原則非公開」に転換する住民基本台帳法改正案が国会に提出されています。公明党などの主張で、個人情報保護の強化に向けて提出された改正案のポイントを整理してみました。
営業目的の大量閲覧を禁止
今回の改正の柱は、「何人でも(中略)閲覧を請求することができる」とする第11条の「何人でも」を削除することで、住民基本台帳を原則非公開に転換することです。
その上で改正案では、閲覧できる場合を、(1)国または地方自治体の機関が法令に従った事務を行う公用(2)公益性の高い調査・研究(3)公共的団体が行う地域住民の福祉向上に寄与する活動――のためと具体的に限定しました。これによって現在、閲覧の大半を占めるダイレクトメール発送や市場調査などのための閲覧は、法律で規制されることになります。
また、閲覧申請の手続きと審査について新たに規定しました。閲覧を求める場合は、閲覧する人の身分はもちろん、利用目的、得た情報の管理方法、調査・研究成果の取り扱いなどを明示しなければなりません。その上で、市区町村がその「公益性」を審査・判断し、閲覧を許可するかを決定します。これは公用での閲覧も同様で、改正案では閲覧を求める国または地方自治体の機関の名称や、閲覧をなぜ必要とするのか、その理由や根拠となる法令名を明らかにするよう求めています。これらは当然、文書で申請し身分証などの写しを添付することになります。
不正な閲覧・利用の防止のために、目的外使用や第三者への情報提供禁止も規定されています。それでも、不正閲覧・利用の疑いがある場合には閲覧者に報告を求め、是正のための勧告・命令を出すことを可能にしました。これらに従わない場合の罰則も強化、過料を引き上げるとともに、6カ月以下の懲役刑を新設しました。
さらに、閲覧者(公的機関や企業含む)名と請求事由の概要を、市区町村は最低毎年1回公表することを義務づけ、閲覧事務の公正な運用を担保しています。
一方、住民基本台帳に基づいて作成される選挙人名簿の閲覧についても、同様の趣旨の改正案が国会に提出され、閲覧できる場合を明確化するとともに、手続きや罰則などを住民基本台帳法に準じて整備することになりました。
2.閲覧の手続き・審査を整備
3.不当な閲覧・利用への罰則強化
4.閲覧者・目的等を公表
改正案は、今国会中に成立すれば年内にも施行されます。実際の事務を行う市区町村では、手続きや審査、報告徴収・勧告・命令のための監視、公表といった新たな仕事のための体制整備が必要となります。いずれも、総務省が省令などの形で基準を示すことになるが、閲覧を認める際の“ものさし”になる「公益性」をどのように判断するかは、実際の判断例を積み重ねていくことが欠かせません。具体例として新聞社が行う有権者の意識調査、研究機関が行う都市計画についての意識調査などが挙げられています。
総務省の出す基準もこれに沿ったものになるものと見られるが、実際に判断を求められる自治体関係者からは「全国の市区町村が、判断例を共有できる仕組みを」との強い要望が出され、総務省も「大変に有益」として施行後、国と市区町村が共同して事例集を作成することにしています。