消費者庁:縦割り行政の弊害を改革
欠陥商品や悪徳商法などから消費者の生命・生活・安全を守ることは、政府の重要な仕事です。しかし、これまでは消費者問題を一手に引き受ける監督官庁がなく、被害の拡大を招く結果となっていました。
日本は行政機構は、いわゆる「縦割り行政」と言われる仕組みで運営されてきました。これは、他の省庁との横の連携に乏しく、各省庁の縄張り意識に支えられた組織形態であったとも言えます。
各省庁は個別分野の行政を担当するが、分野を横断する問題に対し、連携がうまくとれず、迅速・効果的な対処ができません。
行政庁は現在、銀行や保険業は金融庁、航空や建設業は国土交通省、農業は農林水産省、工業は経済産業省と「縦割り」で組織されているため、それぞれの産業振興には効果的とされ、戦後復興から高度成長時には日本の牽引役を果たしてきました。しかし、その後、公害や悪徳商法など、各省庁にまたがる事件の相次ぐ発生で、省庁横断的な行政の重要性が指摘されるようになってきました。
消費者庁は、こうした現状を一歩脱皮し、『国民目線の消費者行政』を実現するために、来年から創設されることになりました。
政府は6月27日、消費者行政推進基本計画を閣議決定し、2009年度からスタートさせる予定の消費者庁の姿を示しました。
基本計画によると、消費者庁を創設する理由として、①消費者を不安に陥れる事件が発生した場合の政府の対応力を向上させる、②明治以来、産業振興を「主」に、消費者保護を「従」にしてきた行政を転換する-ことを挙げました。その上で消費者庁創設を、消費者である国民が主役となる「消費者市民社会」構築に向けた「画期的な第一歩」と位置付けています。
これまでは、食中毒事件が起きたとき、厚生労働省、農林水産省、さらに輸入品であれば産業産業省などがそれぞれ個別に対応。欠陥製品による事故が起きても、警察から業界を指導する官庁に情報がすぐに伝わらないなど、問題解決の迅速性と効率性に問題がありました。
消費者庁は、次の5分野を主に担当します。
①しつこい勧誘で無理やり契約をさせる悪徳商法など、消費者の迷惑を顧みない事業者(企業)が行う「取引」上の不正の監視。
②欠陥製品や食中毒など、消費者の「安全」を脅かす事態への対処。
③金品の産地偽装や、意図的に製品の品質を隠す説明をつけるなど、企業が行う不当な「表示」の是正。
④「物価」に関する基本的な政策
⑤消費者が主役の社会をつくる上で重要な「制度」
例えば、「物価」については「物価統制令」や、「買い占め売り惜しみ防止法」に基づく行政を担い、「制度」については「消費者基本法」や、内部告発をした人を守る「公益通報者保護法」などの法律を運用します。
①~⑤は、消費者の利益に大きな影響を与える分野です。消費者庁はこれらの消費者行政を幅広く担当することになります。さらに、国境を越える消費者被害が起きた場合、関係各国との国際な連携にも取り組みます。
消費者庁は、①消費者からの情報を直接集める、②遵法行為があれば法律に基づく是正措置をとる(法執行)、③規制手段がない新たな問題が生じた場合は法律や政策の企画立案をする--ことによって、消費者問題を迅速、効率的に解決する権限をもちます。
①については、相談窓口の一元化が柱。現在は、地方自治体の窓口、国の国民生活センター、各省庁の窓口の連携が不十分なため情報が一つに集まらず、対応が後手に回っています。消費者に身近な自治体の消費者行政への国の支援は特に重要です。
②も、「絶対に儲かる」など虚偽の金融商品による被害に対しては金融庁が乗り出し、車の欠陥問題なら経済産業省が対処するなど、縦割り行政で別個に動くため、省庁によっては対応が甘いなど法執行に問題がありました。消費者庁は、対応が甘い省庁に対しては強い勧告権を持って是正措置を迫ります。
③の企画立案の権限については、消費者庁が消費者行政の「舵取り役」の地位を占めます。