4月30日早朝、WHO(世界保健機関)は、新型インフルエンザの警戒レベルを「フェーズ4」から「フェーズ5」に引き上げると発表しました。理由は「人から人への感染を確認し、終息の兆候がないため」としています。パンデミック(世界的大流行)は「フェーズ6」ですから、その一歩手前の段階に至っているという認識です。
早めの警戒レベル引き上げで対応を促す
30日朝の段階では、新型インフルエンザの感染者が確認された国は、メキシコ、アメリカ、カナダ、コスタリカ、ニュージーランド、イギリス、スペイン、ドイツ、オーストリア、イスラエルの10カ国、感染者は169人です。冬にインフルエンザが流行する場合はものすごい勢いで広まるものですが、春先は湿度も気温もある程度高いため、そのような環境が苦手なウイルスの活動は抑えられます。このため春先の流行はゆっくりと広がる傾向があるのです。
このぐらいの時点で「フェーズ5」の警戒レベルというのは大げさすぎるという声もありますが、WHOとしてはレベルを引き上げることで各国に注意を促し、積極的な対応で流行を抑え込もうということのようです。
WHO、「インフルインザA型」に名称変更
4月30日、新型インフルエンザの呼称をめぐり、世界保健機関(WHO)は「インフルエンザA(H1N1)」に改めると発表、従来の呼称「豚インフルエンザ」を正式に変更しました。
この名称変更は養豚関連産業への配慮からだといわれています。「豚インフルエンザ」と最初に呼称したのは米疾病対策センター(CDC)。発生地メキシコでの調査で、豚から人に伝わった可能性が有力となったためです。
そもそも、WHOはパンデミック「フェーズ4」以降は、そのウィルスの発生要因であるトリインフルエンザ、豚インフルエンザなどという呼称から、「新型インフルエンザ」との呼称に変更されることになっていましたので当然の措置とも言えます。
重要なこと、新型インフルエンザは、ウイルスが豚肉を介して感染するとのではないと言うことです。しでに、「新型」ウイルスは人から人にうつる型に変異しており、今後の感染拡大で、豚はもはや無関係です。
メキシコや米国で最初の感染例が見つかった直後から、国際獣疫事務局(OIE)は発生地にちなんだ「北アメリカインフルエンザ」を提唱。米政府は29日から、「農家の生活を守るため」として、「H1N1インフルエンザ」の呼称に切り替えました。
WHOも、OIEとの30日の共同声明で、「調理された豚肉や豚肉製品を食べて感染することはない」と強調しました。
日本の対応は
日本では、空港での検疫や入国審査の強化など水際対策を徹底し、国内で発生した場合に備えて医療体制を整えることになります。(4月30日時点)
空港ではメキシコ、アメリカ、カナダなどから到着した便で機内検疫を行っています。乗客に健康状態質問票を配り、サーモグラフィと体温計で熱があるかどうかを調べるなどで、到着した乗客は1時間以上機内で待たされるということも起きていますが、このような事態なので協力してくれるよう理解をお願いしています。横浜港では到着した船舶の乗組員に対して検疫が強化されています。厚生労働省は、ウイルス潜伏期間の10日以内に到着した船舶に関しても追跡調査を実施する構えです。
また、一部の航空会社や旅行社では、通常ならキャンセル料が発生するような航空券・ツアーパッケージに対してもキャンセル料を取らないなどの対応を発表しています。
日本で感染者が出た場合は
「フェーズ5」の警戒レベルで日本でも感染者が確認された場合は、あらかじめ決められた行動計画に従って、学校の休校・企業活動の縮小・商業施設などの営業自粛などの処置が適宜実施されることになります。もう少し詳しくいうと、学校では、新型インフルエンザが1例でも発生した場合、その都道府県の学校は、すべて休校となります。また、国や自治体は住民に外出を控えるように要請を行い、集会やイベントも自粛するよう要請します。さらに旅行者に対しては、不要不急の出国の自粛勧告も出します。企業には、不要不急の業務の縮小を要請しますから、会社も多くの部門が休みになり、自宅待機となるでしょう。
こうなると国民生活や経済にも大きな影響が出ることは避けられませんから、そこに至らないように願うばかりです。
ただし、この行動基準はH5N1型の強毒性の鳥インフルエンザが発生した際の対応として策定されたものです。今回の弱毒性の新型インフルエンザで日本に感染者が出た場合、この通りになるかどうかは今のところ分かりません。
豚肉は食べても安全
鳥インフルエンザの時は多くの鳥が処分され、一時は卵や鶏肉の流通が規制されました。しかし今回の新型インフルエンザでは、豚肉の輸入規制もされていませんし、販売も行われています。これは、肉の部分にインフルエンザウイルスが入っていることはなく、食べても感染する恐れがないからです。さらに71℃以上で加熱すれば、たとえウイルスが付着していてもすべて死滅してしまいますから安全です。日本人は豚肉はよく火を通してから食べる習慣が定着していますから心配はないでしょう。
よその国ではメキシコやアメリカからの豚肉の輸入を禁止しようという動きがありますが、これに科学的な根拠はありません
ワクチンができるのはいつ?
インフルエンザのワクチンは、その新型のインフルエンザが発生してから、ウイルスを入手して作ります。まず受精卵にウイルスを接種して培養し、それをもとにワクチンを作るのですが、そのためには大量の受精卵が必要です。現在は通常の季節インフルエンザのワクチンを作る時期ですから、その受精卵を新型インフルエンザ用に回せば、4~6カ月で製品化ができるでしょう。さらに検査と承認に1カ月と見て、大急ぎで対応すればなんとか秋口の流行には対処できるかもしれません。
インフルエンザは高温と湿気に弱いので、これから夏にかけて下火になると思われますが、秋口から冬に勢力を盛り返してくる恐れがありますから、充分な注意が必要です。
ウワサや偽情報に要注意
新型インフルエンザの発生に乗じて「国立感染症研究所」(東京都新宿区)を詐称した不審なメールが出回っています。メールに添付されたファイルを開くと、パソコンへの不正侵入やシステム破壊の恐れがあり、国立感染症研究所はウェブサイトを通じて「公的な知らせはメールを用いない。添付ファイルを開かずメールごと削除してほしい」と呼び掛けている。
参考:「国立感染症研究所」を詐称したブタインフルエンザ関連メールにご注意ください
不審メールのタイトルは「豚インフルエンザに注意!」などで、『ブタインフルエンザに関する知識.zip』などと題したファイルが添付されています。添付ファイルを開いた場合、パソコン内の情報を勝手に読み取られたり、パソコンを壊されるなどの被害に遭う可能性があります。
日常生活で気をつけることは?
今回WHOが警戒度を「フェーズ5」に引き上げたのは、ウイルスの毒が急に強くなったということではありません。ですから油断は禁物ですが、あまり動揺しないようにしましょう。ニュースなどの情報に注意し、日常生活では手洗いやうがいをきちんと行い、あまり人ごみには行かない、出かける時はマスクをするなど、普通の対応で今のところ大丈夫だと思われます。また、万一風邪のような症状が現れたら、保健所の発熱相談センターに相談するようにしましょう。
(写真は、今年3月11日に行われた京都府や亀岡市などの新型インフルエンザ対応訓練の模様)