支払いに2カ月タイムラグ、中小産科医は資金繰り不安
昨年10月から実施される予定であった「出産一時金の直接払い制度」。この制度は、出産育児一時金42万円を、公的健康保険機関(国民健康保険や社会保険、共済保険など)から妊婦さんの家族に支払うのではなく、直接、医療機関に支払うという制度です。出産一時金の支払いにはタイムラグが生じるために、妊婦家族の負担を軽減するために、公明党などが推進してきました。また、医療機関にとっては、貸し倒れを防止できることなどのメリットがあるとされています。
しかし、制度実施は実施直前の9月29日になって、突然、半年延期されました。その理由は「一時金の新たな支払制度について、対応が困難な中小医療機関への対応のため」というものでした。突然の延期に、出産費を工面しなくてはならなくなった妊婦さんやその家族から、多くの苦情が寄せられました。
この騒ぎから、半年、今度は産婦人科医から猛烈な批判が寄せられています。10月以降、厚労省は産婦人科医療機関への対応策を全く怠っていたようです。
保険期間から医療機関への出産一時金の支払いは、約2ヶ月間のタイムラグが発生します。例えば、1か月に50件の分娩を取り扱う産婦人科では、2ヶ月間4200万円の収入が途絶えることになります。サラリーマンが、いきなり2ヶ月間給料はストップすると言われたら、その家庭はパニックを起こすのと同じ道理です。
大手の総合病院であれば、その他の医療収入で何とか吸収し、この2ヶ月間を乗り越えることが出来ますが、お産を専門に扱う産科医院ではそうはいきません。助産院ではもっと深刻な現状になります。
こうした理由で、「出産一時金直接支払い制度」のため、分娩を取りやめる施設が出てくるのではないかと危惧されています。ジャーナリストの岩上安身氏は、ツイッター(http://twitter.com/iwakamiyasumi)に、「今、全国に、分娩を扱っている施設は、2806施設ありますが、産科医の団体が行った、ある調査によると、有効回答数1764施設中、225施設が、4月から、閉院、もしくは分娩の取りやめを予定と回答しています。ざっと見積もって、15万人の妊婦さんが、お産難民になる可能性があります」との情報を掲載し警鐘を鳴らしています。
井手よしひろ県議は、2月8日、県内の産婦人科開業医を訪問し、現状の聴き取り調査を行いました。それによると、個人病院では深刻な状態であり、厚労省への訴訟問題にも発展する可能性があるとのことでした。2カ月の資金繰りを産科医院の責任とする考えは、明らかに間違いです。産科医院が一箇所でも、この問題で出産の取り扱いを中止するような状況に陥ったば、地域にとって大きな損失です。
政府は一刻も早く有効な対策を打つべきです。保険請求権(医療機関の公的健康保険機関に対する2か月分の売掛金)を譲渡担保に、医療・介護専用の信用保証協会付制度融資をつくるか、SPC(特定目的会社)を設立しファクタリング(債権の買取)させるなどの、抜本的な制度設計を行う必要があると考えています。
ここに来て厚労省も、重い腰を上げて対策に乗り出したようです。
出産育児一時金の月2回請求を検討―厚労省
CBニュース:キャリアブレイン
出産育児一時金の直接支払制度の導入を4月に控え、厚生労働省が医療機関の請求・支払い回数を月2回に増やすことを検討していることが2月8日までに明らかになった。現行の月1回の請求では、支払いが申請から最大で2か月後になるため、医療機関の資金繰りが難しくなるとの声があった。
現行の月1回の請求では、請求日は退院の翌月10日で、支払いは翌々月の5日ごろ。退院が11日だった場合、支払いは2か月後の5日ごろになり、その間は産科医療機関が分娩費用を立て替えることになる。しかし、10日だけでなく下旬にも請求日を設ければ、翌月末には支払いが可能になる。
保険局総務課の担当者は、「月2回でも(資金繰りが)苦しいところがあれば、4月からの全面実施は難しい」ため、月2回に増やした場合の効果などを見た上で実施時期を検討するとしている。
それにしても、実施まで2カ月に迫ってからの方針転換。妊婦家族にも、産婦人科医にとっても利便性がある制度設計を行う責任は厚労省にあります。さらに、政権運営の政治指導を唱える民主党が、全く産科医の声を聞こうとしない姿勢には、怒りさえ感ずるところです。
なお、出産一時金をめぐる議論は、ツイッターのハッシュタグ:#sannkaiでご覧になれます。
