昨年12月、公明党は社会の新たな病理的側面にも対応する「新しい福祉」の理念のもと、将来に希望の持てる国づくりをめざす「新しい福祉社会ビジョン」の中間取りまとめを発表しました。
このビジョンは、以前から制度改革に取り組んできた社会保障制度を改めて見直すとともに、虐待、ひきこもりなど新たな社会的病理への取り組みも追加して「新しい福祉」と名付け、「『孤立』から『支え合い』の社会」への総合的な対応策を提言しています。
その中でも、社会的に弱い立場にある人々を社会の一員として包み支え合う「ソーシャル・インクルージョン(social inclusion)」の取り組みを、当面の具体的施策として位置づけ、提案していることが大きな特徴となっています。
安定した暮らしには、所得が保障され生活を支える仕組みが整備されることと並んで、地域の中に居場所を得ることが大切です。「ソーシャル・インクルージョン」とは、安心して生活することを困難にする問題を取り除き、年齢性別などを問わず人々が社会参加を続けることを可能にする取り組みです。
日本は今、高齢社会・人口減少社会の到来で将来に対する見通しが不透明さを増す中、格差の拡大、雇用の二分化、社会的引きこもりの増加、高齢単身世帯の増加などの課題に直面しています。こうした社会を取り巻くさまざまな変化に対応し、社会保障制度の強化にとどまらない共生を進める取り組みが、公明党が進める「新しい福祉」です。
この「ソーシャル・インクルージョン」の考え方は、EUやその加盟国では、近年の社会福祉の再編にあたって、社会的排除(失業、技術および所得の低さ、粗末な住宅、犯罪率の高さ、健康状態の悪さおよび家庭崩壊などの、互いに関連する複数の問題を抱えた個人、あるいは地域)に対処する戦略として、その中心的政策課題のひとつとされています。
「ソーシャル・インクルージョン」は、近年の日本の福祉や労働施策の改革とその連携にもかかわりの深いテーマとして取り上げられ、2000年12月に厚生省(当時)でまとめられた「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会報告書」には、社会的に弱い立場にある人々を社会の一員として包み支え合う、「ソーシャル・インクルージョン」の理念を進めることを提言しています。
一方、教育界を中心にここ数年間で広がってきたインクルージョンの概念は、「本来、すべての子どもは個別の教育的ニーズを有するのであるから、さまざまな状態の子どもたちが、集団学習を行うことを前提としながらも、学習計画や教育体制を最初から組み立て直そう。すべての子どもたちを包み込んでいこう」という理念であり、これが特別支援教育へとつながっているものです。
年金・医療といった狭義の社会保障と並んで雇用の保障を強化することにより、いわゆる包括的な生活保障を実現します。
特に重点をおいて実効性ある取り組みを必要とする分野は、若者、障がい者、女性の雇用であり、経済成長戦略や社会保障制度の充実強化とリンクして雇用創出の将来ビジョンの策定を推進します。同時に、あらゆる年齢・性別・障がいの有無にかかわらずエンプロイアビリティ(職業能力)を高めるための教育訓練機会の確保を図ります。
(2)「新しい福祉」など──個別の課題への重点的な取り組み
家族構造の変化や児童虐待、家庭内暴力といった問題を抱える家族の増加、うつ病や発達障がい、自殺の増加といった問題に対し、現状は社会保障制度を含め十分な対応ができていません。「新しい福祉」はこうした社会そのものの変化によって深刻化している課題に対応することの必要性を指摘するものです。
教育、福祉、医療、就労支援など包括的かつ継続的な支援体制を構築する必要があり、具体的には以下の課題に対し重点的な取り組みを進めます。
1.高齢者の社会的孤立の予防
高齢単独世帯の地域における見守り体制の充実強化を図るとともに、こうした取り組みを行うNPOなどの団体に対する財政支援を進めます。また、個人情報保護法を改正し、個人情報の共有の問題を解決します。次期介護保険法の改正において地域支援事業における見守りなどの対策を明確に位置づけます。
健康や趣味のクラブなど地域コミュニティ活動への財政支援を通じてその活性化を図り高齢者の地域とのかかわりや健康維持を支援するとともに、シルバー人材センターなどを活用した高齢者の「いきがい」としての社会参加を推進します。
2.DV対策
DV被害当事者の自立支援策を拡充するとともに、若者の間で広がっているデートDVに対する啓発事業を推進します。また、被害者支援を行っている民間シェルターなどへの財政支援の拡充など総合的にDV 対策を進めます。
3.うつ病などへの対策
職場・地域における早期発見、早期介入のための体制整備を進めるとともに、認知行動療法や適切な薬物療法の普及を促進します。また、復職プログラム・社会復帰プログラムの策定と適用を推進します。
加えて、うつ病など精神疾患による患者数が近年、大幅に増加していることから、早期発見から社会復帰までの一貫した支援体制を拡充します。
4.引きこもり対策
引きこもりの長期化・高年齢化(平均30歳代)など引きこもりが社会問題化(厚生労働省調査約26万人・総務省調査約70万人)されている中で、引きこもりの早期発見や相談支援などの役割を担う「引きこもり地域支援センター」の設置や居場所づくり・アウトリーチ・家族支援など総合的な引きこもり支援策を拡充します。また引きこもりの予防を強化するため、初等・中等教育を通じた不登校などへの対応を強化、教育課程からの脱落を防ぎ社会的自立を促す必要があります。さらに、地方自治体の積極的な関与を進めるとともに、自立支援団体の活動強化のための財政支援を行います。
5.虐待対策(児童・高齢者・障がい者)の取り組み強化
児童相談所の機能強化のための人員体制の充実や児童相談所の全国通報電話番号の簡易化を進めます。また、虐待予防のための乳幼児の母親のケアや里親による養育への財政支援等の充実に取り組みます。
高齢者虐待防止法の見直しに向けた検討を進めるとともに、障がい者虐待防止法の制定に取り組みます。
6.ホームレス・ネットカフェ難民などの対策
生活保護制度の在り方の見直しを進めるとともに、地方自治体への財政支援を通じて積極的な住居と仕事の確保を進めます。
7.定住外国人対策
日系ブラジル人や中国残留邦人帰国者の親族集団など地域によっては外国人が「集住」している現状を踏まえ、子女の教育や地域社会との共生など様々な課題が指摘されています。適切な教育と就労機会の確保について国が積極的な関与を行い、地方自治体の取り組みを支援します。
8.災害時の対策の強化
社会的に孤立している高齢者や障がい者などが最も危機に直面するのは大地震などの災害時です。支援を必要とする人々について本人の同意の下にリストを作成するなど積極的な取り組みを進めます。
9.過疎地域などでのコミュニティサービスの確保
いわゆる過疎地域や離島などにおいて、地域でのコミュニティサービスを担う人材に対する支援を行います。
(3)総合的な施策の推進
1.内閣府に特命担当大臣の設置
こうした問題はその対応が様々な分野にわたるため、ややもすると施策の谷間におかれがちであり、社会的統合の視点から諸施策を点検し、その見直しを継続的に図っていく必要があります。そのため内閣府にソーシャル・インクルージョンについて担当する特命担当大臣を設け、定期的に政府の施策全般のレビューを実施します。また同様の取り組みを地方自治体に対しても求めていきます。
2.フレキシブル支援センターの整備推進など
地域における支え合いの具体的な展開については、ケアが必要な当事者同士の交流や活動を通し、コミュニティや絆の再生を行う「支え合い」社会の構築に向けた取り組みを支援することが重要です。
また、高齢者や障がい者、子育て中の保護者などを対象に、これまでの縦割りのサービスを超え、多機能な支援が受けられる「フレキシブル支援センター」や、子ども・若者への総合的な支援を提供する「子ども・若者支援地域協議会」などの整備、「地域若者サポートステーション」の機能強化、若者支援について自治体、保健所、学校の連携強化を進めます。