6月2日、公明党の山口那津男代表、松あきら副代表らは2日、脳脊髄液減少症患者・家族支援協会の中井宏代表理事らと面会し、厚生労働省が近く脳脊髄液減少症の総括研究報告書を示すことを受け、意見交換しました。
脳脊髄液減少症は交通事故などで頭部や全身を強打することで脳脊髄液が漏れ、頭痛や倦怠感などさまざまな症状を引き起こす疾病。従来は「何らかの衝撃で髄液が漏れることはあり得ない」との見解が医学界では支配的でした。
公明党は2006年4月、他党に先駆けて党内に脳脊髄液減少症対策チームを設置。地方議員とも連携し、患者や家族の声に耳を傾け、粘り強く政府に対策強化を求めてきました。その結果、2007年には厚労省に脳脊髄液減少症の診断基準を定めるための研究班が発足。今回の報告書では、衝撃による脳脊髄液の漏れは稀ではないなどとする結論が示され、脳脊髄液減少症に対する認識が大きく転換しました。
中井代表理事は「髄液漏れが認められたことは感慨深い。公明党と共に闘ったおかげだ」と謝意を表明。山口代表は患者・家族らの活動に敬意を表し、「今後も苦しんでいる人の支援、救済に取り組む」と応じました。
脳脊髄液減少症とは
脳脊髄液減少症とは、脳と脊髄の周りを満たしている体液が、交通事故や転倒などの衝撃で漏れ、減少することで頭痛、首の痛み、倦怠感などの症状があり、寝たきりの生活を余儀なくされるケースも疾病です。
治療法としては、自分の血液を採取して、腰や脊髄の硬膜の外側に注入し、髄液の漏れを止めるブラッドパッチ(硬膜外自家血注入)があり、これまで約1万人近くの患者が同治療を受けています。
(イメージ写真は、(c) koichi|写真素材 PIXTAより)
公明の推進で、厚労省が本格研究をスタート。治療法確立へ前進
公明党は、脳脊髄液減少症の治療法の確立や、ブラッドパッチ療法への保険適用などを推進してきました。
中井さんらは、2002年に「鞭打ち症患者支援協会」を設立して活動を始めました。当時、医学界では「鞭打ち症で髄液が漏れるなど、あり得ない」という認識が一般的で、“無理解の壁”との闘いに悪戦苦闘していました。このような時、公明党の地方議員と出会います。公明党の議員は、中井さんらの訴えに熱心に耳を傾け、即座に行動に移しました。その結果、千葉県議会では2003年12月、公明党議員の推進で、脳脊髄液減少症の治療推進を求める意見書が全国に先駆けて採択されました。これをキッカケに、中井さんらは、全国の患者たちと署名運動を展開しつつ、各都道府県議会での意見書採択を推進しました。
茨城県でも、2005年6月議会の保健福祉委員会で、井手よしひろ県議がその研究、啓発の推進を強く執行部に求めました。同年10月には、県が後援して脳脊髄液減少症の治療に関する勉強会も開催され、大きな反響を呼びました。そして、10月24日の茨城県議会本会議で、「脳脊髄液減少症の治療推進を求める意見書」が全会一致で採択されました。
現在では、全47都道府県で、こうした意見書が採択されています。
一方国会では、2004年3月に、公明党衆院議員が脳脊髄液減少症の治療法研究や保険適用を求める質問主意書を政府に提出しました。2006年3月の参院予算委員会で公明党議員が、ブラッドパッチ療法への保険適用を強く主張。さらに、翌4月には他党に先駆けて、党内に脳脊髄液減少症ワーキングチームを結成しました。また、当時、文部科学副大臣だった公明党議員(池坊保子衆議院議員)が、全国の教育委員会に対し、脳脊髄液減少症で苦しむ子どもたちへ適切な対応を求める事務連絡を発出しています。
2007年度には、厚生労働省研究班(代表、嘉山孝正・国立がん研究センター理事長)が発足し、4年間にわたる研究の結果、2011年6月に「髄液漏れの患者の存在が確認できた」とする中間報告書をまとめました。報告書は「(脳脊髄液減少症の発症の)頻度は低くない」と指摘。その上で、MRI(磁気共鳴画像化装置)などの画像の判定基準や診断の進め方についても案をまとめており、今後、関係する各学会の了承を得たいとしています。これにより、脳脊髄液減少症の治療法の基準作りや保険適用に向けての動きが大きく前進するとみられます。
髄液漏れ、早期診断に光 患者存在「確認」厚労省研究班報告
毎日新聞<クローズアップ2011>2011年6月8日
脳脊髄液減少症(髄液漏れ)に関する厚生労働省研究班の中間報告書は、髄液漏れの存在を認め、関心が高かった交通事故などの外傷による発症も「決してまれではない」とした。研究班には、脳神経外科や整形外科など関係する学会の代表が加わっており、診断基準が確定すれば、早期診断・早期治療体制の確立につながることが期待される。一方で司法の混乱を収束させることや、治療に際して保険適用を求める声も高まっている。
◇課題は後遺症救済
研究班の代表の嘉山孝正・国立がん研究センター理事長は、取材に「班員の努力、協力で報告書ができ、ホッとしている。今後は治療の分野でも科学的な基準を作りたい」と話した。研究班は、患者の各種画像の判定基準や診断のフローチャート(流れ図)の各案について、各学会の了承を得る作業を進めており、まとまれば、髄液漏れの見逃しや過剰診断は無くなると見込む。
研究班は「頭を高くしていると頭痛が始まったり、ひどくなる」患者100人を分析し、16人について髄液漏れが「確実」と判断した。いずれも頭痛が悪化するまでの時間は30分以内だった。発症原因は、外傷5例、腰への注射1例、重労働1例、原因なし9例だった。外傷5例の内訳は、交通事故2例、交通事故以外の頭頸(とうけい)部外傷2例、尻餅1例。「交通事故による発症の有無」などがこれまで裁判などで焦点になっていたが、研究班は「外傷が契機となるのは、決してまれではない」と認めた。
髄液が漏れていると推定された部位は、頸椎(けいつい)5例、頸胸椎6例、胸椎3例、腰椎2例だった。
報告書は、各種画像に関する判定基準(案)も提示。診断のフローチャート(案)では「頭を上げていると30分以内に頭痛が悪化する」患者について、頭部と脊髄をMRI(磁気共鳴画像化装置)で検査し、硬膜の状態などを確認し、両方かどちらかが判定基準に合致する「陽性」ならば、髄液漏れと見なす。陰性だった場合でも、造影剤を使った「ミエロCT」と呼ばれる検査や、微量の放射性元素で目印を付けた特殊な検査薬を使う「脳槽シンチ」で髄液漏れかを判断する。
髄液漏れと交通事故との関係性を強く主張し、研究班にも加わった篠永正道・国際医療福祉大教授は「否定されてきた髄液漏れの基準ができたことで、事故の後遺症に苦しむ人の救済につながることを願うばかり」と話す。
損保、迫られる姿勢転換
髄液漏れが社会的な注目を集める理由の一つは、補償を巡って患者と事故の加害者・損保業界側が対立し、多くの訴訟が起きていることだ。05年春に報道で訴訟が相次いでいることが表面化。その後、事故と発症との因果関係を認めた司法判断も数例が明らかになったが、多くの判決で患者側の主張が退けられているのが実態だ。
最近になっても、損保業界側は「ごく特定の医療機関が診断するにすぎない疾患。医学的にまったくコンセンサスが得られていない。一度の治療で改善しないことの合理的な説明がない」(患者側が勝訴した3月の名古屋高裁判決文より)などと主張している。今回の報告書は、損保業界側の姿勢の転換も求めることになりそうだ。
訴訟では、三つの診断基準が司法の判断基準に使われてきた。
患者側は、診断に積極的な医師グループ「脳脊髄液減少症研究会」のガイドライン(07年)を基に髄液漏れを主張。これに対し、損保業界側は、国際頭痛学会の診断基準(04年)と日本脳神経外傷学会作業部会の診断基準(07年)を否定の根拠とする傾向にある。
患者側の大きな障害の一つが、国際頭痛学会の診断基準が、この病について「(治療法として知られる)ブラッドパッチで72時間以内に頭痛が消失する」としていることだ。
ブラッドパッチを受けた後も頭痛が消えず、後遺症への補償を求める患者は少なくないが、同学会の基準では「髄液漏れ」にはならない。
患者側代理人の経験が多いある弁護士は「ブラッドパッチの効果が大きければ髄液漏れと認め、なかなか治らなければ認めないという司法判断が定着すると、後遺症への補償は認められないことになってしまう」と指摘。研究班が診断基準としなかったことを評価しつつ、「後遺症の基準も早くできてほしい」と話す。
患者「一刻も早く保険適用を」 治療1回20~30万円
患者団体「脳脊髄液減少症患者・家族支援協会」(和歌山市)の中井宏代表は7日、厚生労働省で記者会見し「極めてまれだと言われてきた髄液漏れが、認められ、非常に大きな影響力がある。一刻も早く、治療の保険適用を実現してほしい」と訴えた。
協会は02年に患者らが設立。当初は診察してくれる医師が少ないため、各地の医師会に働きかけたり、診察する医療機関をホームページで紹介するよう全国の自治体に要請してきた。
その後、髄液漏れと診断される患者が増えるにつれ、患者団体の数も増えている。
子供が学校内の事故で発症することもあり、文部科学省は06年、髄液漏れについて学校現場に注意を求めた。昨年4月には、厚労省が検査に保険適用を認めることを通知。長妻昭厚労相(当時)が12年度の診療報酬改定の際に、ブラッドパッチの保険適用を検討する方針も明らかにしている。
ブラッドパッチは患者本人から採った血液を注射して漏れを止める。1回に20万~30万円程度かかるという。
会見に同席した患者の川野亨さん(32)は「治療を受けるまではほとんど寝たきりで、働くどころではなかった。そんな患者たちが保険適用を待ち望んでいる」と話した。