7月4日、東京電力本店の皷紀男筆頭副社長らが謝罪と各種団体からの要求を聞くために、茨城県庁を訪れました。これに対して、茨城県の橋本知事などからは、福島原発事故の早期収束や農水産物などの被害に対する早急に十分な補償を求める声が相次ぎました。
3月11日の事故以来初めて茨城県庁を訪れたのは、東京電力の皷紀男副社長、川俣原子力・立地本部原子力品質・安全部長、宮川原子力・立地本部原子燃料サイクル部長ら7人です。
冒頭、挨拶に立った皷副社長は、「茨城県の皆様に大変な迷惑や心配をおかけし、おわびしたいと思います。申し訳ありませんでした」と謝罪。川俣原子力・立地本部原子力品質・安全部長が福島第1原発の事故対応について説明しました。その後、宮川原子力・立地本部原子燃料サイクル部長が、海洋への汚染水排出について説明。「4月4日~10日にかけての低レベル汚染水1万トン余りの放出は、高レベル汚染水の処理にはどうしても必要だった」と弁明しました。
こうした謝罪と説明に対して、これに対して橋本知事は、JA茨城県中央会や県市長会などの代表と連名で、東京電力西澤俊夫社長に対する「申入書」を手渡しました。その具体的項目は以下の6点です。
- 今回の原発事故について、国内外の原子力関連の研究者や技術者等との連携はもとより、あらゆる分野の知恵とカを結集し、一刻も早く事態を収束させること。特に、発表した工程表に関しては、確実に実行されるよう、国と一体となって万全の対策を講じること。
- 住民の安全対策や健康被害の救済などに資することができるよう、今回の原発事故に関する全ての情報を迅速且つ適切に開示すること。また、できる限り早期に、今回の事故の徹底的な原因究明及び詳細な解析等を行い、その結果を公表するとともに、今後の安全対策・防災対策に役立てること。
- 福島第一、第二原子力発電所の放射性汚染水の海洋放出については、国内外に対し極めて悪いイメージを与え、県内はもとより日本国の漁業や観光産業等へ大きな悪影響を及ぼすことから、絶対に行わないこと。
- 今回の原子力事故に係る損害については、被災者が一日も早く元の生活に戻れるよう、相当因果関係が認められる全ての損害を補償の対象とし、次のとおり対応すること。
(1) 政府等の指示による農畜水産物の出荷制限・出荷自粛分については、2分の1の仮払いに止まらず、早急に全額を支払うこと。
(2) 農畜水産物に係るいわゆる「風評被害」については、原子力損害賠償紛争審査会の第2次指針に沿って、早急に十分な補償を行うこと。
(3) ホテル、旅館、土産物店、ゴルフ場などにおける観光被害や外国人の本県回避による各分野における損害などについては、イメージダウンによる今後の影響なども踏まえ、できるだけ前広に補償すること。
- 放射線や放射性物質により健康被害が生じることのないよう、放射線量の測定、放射性物質の除去等、健康被害の発生を防止するために必要な措置を、国と一体となって講じること。特に、子どもたちの利用する幼稚園、保育所、学校、公園等の安全確保には留意すること。
- 大規模な震災被災に加え、原子力発電所事故による深刻な影響を受けている本県は、同時に首都圏への電力供給に当たり最大限の協力をしている県でもあるので、本県においては絶対に計画停電を行わないこと。
申入書を手渡しした橋本知事は「地震や津波の被害は復旧できると考えているが、原子力事故は今後どうなるかわからない状況が続いている。責任のある方の謝罪や説明が遅くなったことに抗議したい」と、強い口調で述べました。
市長会を代表して発言した豊田北茨城市長は、東電の責任で放射線の測定器などを市町村に配布し、住民の不安を解消すべきだと訴えました。
また、茨城沿海地区漁業協同組合連合会の代表が「このままでは漁業だけでなく、水産全体がだめになる。風評被害を含む損害賠償の早期の支払いを強く求める」と述べるなど、漁業や農業の関係者から早期の賠償を求める声が相次ぎました。
謝罪や説明を終えて行われた意見交換では、何事も国の指示に従ってと責任転嫁を繰り返す東電の姿勢に厳しい批判が寄せられました。井手よしひろ県議は、100日以上経っても東電の責任者が来県しない現状を重視し、「西澤社長または勝俣会長が茨城に来る予定は決まっていますか?」と問いただしました。皷副社長は「決まっていません」と答え、重ねての井手県議の「必ず来ますか?」との質問にも「分かりません」と、答えるのみでした。
この日の東電幹部の県庁訪問が、東京電力の単なるアリバイづくりやガス抜きであってはなりません。放射性測定機器の自治体への配布や被害補償の円滑化、責任者の早期の茨城県訪問など、具体的な要求が突きつけられて訳ですから、誠意ある東電側の対応を強く望みます。
東日本大震災:東電副社長が謝罪、事故後初の来県
朝日新聞(2011/7/5)
知事ら抗議、早期賠償要求
東京電力の鼓(つづみ)紀男副社長が4日、福島第1原発事故後初めて本県を訪れ、県庁で橋本昌知事や首長、農林水産など各種団体の関係者らに「大変な迷惑や心配をおかけし、おわびしたい」と謝罪した。橋本知事らは早期の賠償支払いを求める申し入れ書を提出。事故の早期収束を強く求めたが、鼓副社長は「早期に対応したい」などと繰り返すのみで具体的な回答はなく、出席者からは厳しい意見が相次いだ。
「県民は、はらわたが煮えくりかえっている」。橋本知事は冒頭、東電幹部の来県がこれまでなかったことに対して厳しい口調で抗議し、鼓副社長に申し入れ書を提出。この後、東電役員7人と本県関係者約200人による意見交換が2時間余りにわたって行われた。
豊田稔北茨城市長は「事故後6回要請をしたが、東電からは1回しか回答を得ていない」と強く批判。東電が責任を持って自治体に線量計を配布するよう求め、「北茨城の市民や子供たちとしっかり話し合ってほしい」と語気を強めた。JA県中央会の加倉井豊邦会長と茨城沿海地区漁連の小野勲会長も「東電の態度はあまりに不誠実だ」と指摘し、早期の賠償支払いなどを求めた。しかし、鼓副社長ら東電側は「なるべく早急に対応したい」などと応じただけだった。
井手義弘県議(公明)が「勝俣恒久会長か西沢俊夫社長が茨城に謝罪に来るべきだ」と強く要求したのに対しては、鼓副社長が「会長、社長に必ず伝える」と返答した。終了後、報道陣の質問に応じた橋本知事は「会場の声を持ち帰って東電としてしっかり対応してもらうことが必要だ」と話した。