地震から5分を目安に、徒歩で避難できる街づくりを提案
9月28日、中央防災会議の専門調査会が政府に提出した報告書は、地震履歴を中心に地層の丹念に調べることで『東日本大震災も予見できた』との産業総合研究所の宍倉正展博士に代表される研究者の考え方を反映させる内容になりました。
今まで、中央防災会議が貞観地震など古文書に記録のある津波を考慮の外に置いてきたことについて「十分反省する必要がある」と明記し、「従前の想定手法の限界」を率直に認めています。
6月17日、井手よしひろ県議ら茨城県議会公明党が行った聴き取り調査で、宍倉博士は以下のように述べています。
その半面、津波を巨大な防潮堤などの構造物で防ぐというのは、実は困難です。学校など住民の命に関わる施設は、過去最大規模の津波の浸水域から免れる高台に作るか、容易に避難できる構造にすることが重要です。人命だけは何があっても守られるよう、避難する場所や経路の整備と訓練、ハザードマップ作成などソフト面での対策が、本当は最も重要です。
説明のまとめとして宍塚博士は、「地質学では“過去は未来を測る鍵”“現在は過去を解く鍵”といわれています。今回の大震災に伴う現象を正確に捉えて、過去の現象の復元に役立てる。そして、過去数千年まで遡り、あらゆる自然の痕跡を広範囲に、高密度に逃さず読み取る研究が重要です」と語りました。
中央防災会議専門調査会の報告では、津波対策については二つのレベルの津波を想定する必要があるとして、(1)住民避難については「発生頻度は極めて低いものの、発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波」(2)防波堤などの建設に関しては「最大クラスの津波に比べて発生頻度は高く、津波高は低いものの大きな被害をもたらす津波」―をそれぞれ想定するよう政府に求めています。
住民の生命を守るための対策に関しては今後、「想定外」を許さないとの強い意思の表明されました。
この報告書を受け、政府は防災基本計画の抜本見直しを進めることになります。現基本計画では、津波は震災対策編の一つの事項として扱われているにすぎませんが、こうした津波の防災上の位置付けから見直すことを報告書は求めています。
大幅改訂は1995年の阪神大震災後以来となります。内外の英知を結集し、災害に強い国造りを進める必要があります。
報告書は津波対策について「地震から5分を目安に、原則として徒歩で避難できる街づくり」を求めています。また、大津波に襲われても社会・行政機能が失われないよう、病院や役所を浸水の危険の少ない場所につくるよう提案している点も評価できます。
茨城県の津波被害の実情を見てみると、9月30日の県が公開した「津波浸水実績」による河川、砂丘部を除いた浸水実績面積は、約17.6平方キロに及んでいます。県が2007年10月に発表した津波浸水想定区域図(津波ハザードマップ)の浸水想定面積は約9.4平方キロで、実際の浸水面積は約1.8倍となりました。
今回の浸水範囲は、河川をさかのぼった津波が用水路などに入り込み内陸部に広がって事例などが多くあり、今後の津波対策の一つの視点となっています。
また、今回の報告書でも「海底地震計、ケーブル式沖合水圧計、GPS波浪計等海域での観測を充実させるなど、地震・津波観測体制の充実・強化を図る必要がある。また、消防団員等が海岸へ直接津波を見に行くことを回避するため、沿岸域において津波襲来状況を把握する津波監視システムを強化する必要がある」強調されているように、観測態勢がほとんど施されていない茨城県沿岸の体制強が強く望まれています。
こうした防災対策に関わる情報は、地域主導で震災からの復興をめざしている被災地に一刻も早く伝える必要があります。国の防災基本計画の変更は、そのまま自治体の防災基本計画の見直しにつながるからです。
防災対策に裏打ちされた速やかな復興に向け、政府は全力を尽くすべきです。
参考:東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告