昨年(2011年)12月26日に公表された、東京電力福島第1原発事故に関する政府の事故調査・検証委員会の中間報告から、民主党政権の危機管理能力の欠如を再確認してみたいと思います。
- シビアアクシデントにおける津波リスクの認識不足
- 官邸内の連携不足。5階の菅首相らと地下の危機管理センターとの意思疎通が不十分だった
- SPEEDIが活用されず、きめ細かさを欠いた避難指示に自治体や住民が振り回された
- 国民への放射能の影響の説明や海外への情報発信があいまいで分かりにくかったり、遅れたりした
- 現地の原子力保安検査官が早期に現場を離れ、東電への指導力も発揮できず
- 原子炉冷却装置について、作動状況の誤認や注入手順の不手際があり、対応が遅れた
この中間報告では、官邸内のコミュニケーション不足や住民への不適切な避難指示など、政府による情報の集約・伝達・公開に不備があったと指摘しているほか、津波や過酷事故の対策、複合災害についての視点が国と東電の双方で欠如していたと強調しています。
中間報告書は、全部で7章で構成され、A4判507ページに及んでいます。政府事故調査委員会は、原発事故関係者456人から延べ900時間にわたって聴き取り調査を行いました。事故対応の責任者であった菅直人前首相などからの聴取は行われておらず、今年上半期に出される最終報告書に、盛り込まれる予定です。
報告書では、「『想定外』の津波が襲ってきた特異な事態だから対処しきれなかったという弁明では済まない」と、一連の対応を厳しく指摘してます。
その上で、経済産業省原子力安全・保安院に対しては、事故の対応や未然防止について「問題点が認められる。国民の強い不信を招いた」と言及し、監督官庁としての無責任ぶりを詳らかにしました。
まず、中間報告書は、情報収集の姿勢を問題視しました。保安院は震災直後から経産省の緊急時対応センター(ERC)で対応を始めましたが、ERCに常駐する東電の社員に電話で状況確認をさせていたたまに、現場の状況把握が遅れました。東電社員は、直接福島原発から情報を収集したのではなく、東京の東電本店を経由した情報を基に対応を検討していたという為体でした。さらに、東電本店に保安院の職員を派遣することもしませんでした。
東電本店は第1原発とテレビ会議でやりとりしていましたが、現場を掌握していないERCは、このテレビ会議システムを活用しませんでした。このシステムを活用開始したのは、3月31日になってからでした。
一方、現場の情報収集を担う保安検査官は事故直後に第1原発から逃げ出してしまっています。事故調査委員会は、「積極的に情報収集の役割を果たす自覚と問題意識に欠けていた」と、保安院を糾弾しています。
また、菅直人首相(当時)のリーダーとしての資質を欠いた行動と判断ミスが、混乱を助長したことも明らかにしています。
空焚き状態にあった原子炉1号機の過熱を止めるのに必要だった海水注入を、海水を注入すると再臨界が起こるとの懸念から止めようとしたり、放射性物質拡散予測システム「SPEEDI」を活用せずに住民避難の混乱を招いたりした事例は、“人災としての福島”を改めて印象付けました。
無用な被ばくを避ける上で重要な避難や屋内退避、安定ヨウ素剤の服用など放射線防護対策も後手に回わりました。事故調査委員会は「住民の命と尊厳を重視する立場でデータの重要性を考える意識が希薄だった」と批判しています。
政府の事故対応を巡っては、原発から放出された放射性物質の拡散状況を予測し、避難などに役立てる文部科学省の「緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)」が活用されていなかったことが、早い段階から疑問視されていました。
放射性物質の量や種類などのデータが停電で送信できず、拡散する量の試算値を算出することはできませんでした。一方、毎時1ベクレルが放出されたと仮定した拡散予測は事故発生当日の3月11日夕以降、1時間ごとに計算、経済産業省原子力安全・保安院や福島県などに送信されていたのです。
ところが、政府機関も県も「実際の線量ではなく、具体的な措置の検討に活用せず、公表するという発想もなかった」と、中間報告は言っています。その結果、一部の住民の避難先は放射性物質の飛散方向と重なり、避難住民は、多量の放射性物質を被ばくしました。SPEEDIの分析結果の公表遅れは、被ばくの少ない避難経路を選ぶ機会を奪ってしまったのです。
さらに、放射性ヨウ素の体内蓄積を防ぐ安定ヨウ素剤の服用についても、原子力安全委員会が15日未明に「入院患者の避難時に投与すべきだ」と助言しましたが、現地対策本部の職員は被ばく回避などで県庁へ移転中で、助言が記載されたファクスが活用されることなく放置されたままになってしまいました。
中間報告では、一連の混乱の原因を、政府の意思決定が首相執務室のある官邸5階に集められた一部の省庁幹部や東電幹部の情報だけで行われたことを指摘しています。ここには、SPEEDIの担当者は常駐していませんでした。
この状況を産経新聞の記事では「菅直人・前首相の怒鳴り声が廊下まで響き、誰も近寄りたがらなかった」と、表現しています。
中間報告は次のような言葉で結ばれています。
「今回の原子力災害は、まだ終わってはいない。現在も、長期間にわたる避難生活を強いられ、あるいは、放射能汚染による被害に苦しんでいる多くの人々がいる。被ばくによる健康への不安、空気・土壌・水の汚染への
不安、食の安全への不安を抱いている多くの人々がいる。こうしたことを銘記しながら、平成24 年夏頃に予定している最終報告に向けて、当委員会は更に調査・検証を続けていく」と。
参考:東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会「中間報告」
2つの不作為と2つの機能不全・民主党政権の限界露呈
三重中京大学大学院研究科長(憲法・防衛法専攻)浜谷英博氏
(公明新聞2012/1/10)
――“福島人災説”の見方が強まっているが。
浜谷氏 原発事故への対応に限らず、震災後の政府の危機管理には「二つの不作為」と「二つの機能不全」という重大ミスがあった。
二つの不作為のうちの一つは、災害対策基本法にある「災害緊急事態」の布告をしなかったことだ。震災に対する政府の統一的な意思を示し、また司令塔としての官邸の機能を高めるためにも布告は必要だった。
――二つ目は?
浜谷氏 安全保障会議を招集しなかったことだ。同会議設置法にある通り、安保会議のテーマは国防だけではない。「内閣総理大臣が必要と認める重大緊急事態」については首相の権限で招集できる。1000年に1度と言われる東日本大震災がこれに該当することは明らかだが、菅氏はもとより、各閣僚からも招集を求める声が出なかったという。危機管理に対する民主党政権の感覚の鈍さ、認識の甘さを示して余りある。
外相や防衛相も入る安保会議が招集されていれば、風評被害があそこまで海外に拡散することはなかったし、10万人以上もの自衛隊員が被災地に入る中、周辺国によるスクランブル事案が列島周辺で急増するという“国防の空白”を生むこともなかっただろう。危機管理とは国防も災害対応も含んだ総合的概念ということが、民主党政権には分かっていないようだ。
――二つの機能不全は?
浜谷氏 危機管理監と内閣官房参与に関わる機能不全だ。
危機管理専門の行政官である危機管理監の下には、100人規模の国家公務員で構成する危機管理センターがあり、政府が初動措置の第一次的判断を下す際に欠かせない存在だ。ところが、民主党政権は「官僚排除」を掲げていたので、危機管理のキーマンである管理監と危機管理センターを使いこなせなかった。中間報告が「官邸とセンターとの意思疎通が不十分だった」と指摘するゆえんだ。内閣官房参与に関わる機能不全も同様だ。“誤った政治主導”の力学がここでも働き、政府の意思決定ラインが複雑化し、断片情報に振り回されることになった。
危機管理問題を通して、民主党政権の限界が鮮明になったというほかない。
今や携帯電話からテレビ会議をする時代です。
物はどんどん進化しているのに人が乗り遅れてどうするのでしょう?報告連絡相談(ホウレンソウ)はコミュニケーションの基本です。日本人よ他とコミュニケートすることをおそれるなかれ、もっとコミュニケーション上手になってくれ!