茨城、栃木両県を竜巻が襲ってから1カ月――。現地では、がれき処理など復旧へ向けて本格的な動きが始まっています。しかし、住宅被害に遭った住民は、「被災者生活再建支援法」や災害救助法の「応急修理制度」の適用をめぐって戸惑いを見せている現実があります。屋根が吹き飛ばされても公的支援が受けられないからです。住宅再建費用が重くのしかかる中で、被災者から「政府の対応は遅く鈍い」との声が上がっています。
被災者生活再建支援法:『屋根吹き飛ばされても支援ない「一部損壊」
かつては筑波山の麓の門前町として栄え、現在も土蔵造りの町並みが残る茨城県つくば市の北条商店街――。1カ月前の竜巻の直撃で町並みは一変。北条商店街90店のうち約70店が被災し、観光拠点も大きな被害を被りました。
北条商店会・北条街づくり振興会の会長を務める坂入英幸さん(62)は、商店街の早期復旧に頭を抱えていました。
「坂入さん、お店は大丈夫でしたか」――。5月17日、東京から調査に入っていた参院災害対策特別委員会の視察団から声を掛けられました。公明党の渡辺孝男参院議員でした。坂入さんとは高校時代の同級生。渡辺氏は話を詳しく聞くため、後日あらためて訪問することを約束。5月29日に坂入さんが経営している時計店を訪れました。これには田村けい子茨城県議、小野泰宏つくば市議が同行し、坂入さんの声に耳を傾けました。
現在、つくば市では、住宅被害に対して、最大300万円の支援金が支払われる「被災者生活再建支援法」が適用されている。しかし、その対象は「全壊」または40%以上損壊がある「大規模半壊」と判定された住宅のみで、一部損壊は対象外となります。
坂入さんは「竜巻で、多くの家が屋根を吹き飛ばされた。それでも『一部損壊』の判定だ。人が住めないのに支援がないのはおかしい」と疑問を投げかけています。
茨城県によると、屋根だけが飛ばされても、法律が適用される大規模半壊に認定された場合より被害が大きい可能性があるため、国に特例認定を求めましたが、いまだに返答がありません。渡辺参議院議員は「支援法に竜巻被害の特別な基準を早急に設けなければならない」と語り、弾力的な運用を求めていく意向を示しています。
一方、公明党つくば市議団(小野幹事長)は5月30日、市原健一市長に「つくば市の防災対策に対する要望書」を提出しました。
小野幹事長は、最大52万円が補助される災害救助法の応急修理制度について、申請に必要な罹災証明書の発行に数週間かかる上、申請後も市が業者に発注し工事するまで損傷箇所を放置するなど、被災者の実情にそぐわない面があると指摘。
被災者支援制度の柔軟な運用、特に応急修理制度を竜巻の発生段階にさかのぼり、修理費用などを給付することや、竜巻被害に対応した罹災判定基準を見直すよう要望しました。
つくば建物被害1030棟に・・・竜巻1か月
読売新聞(2012/6/6)
つくば市を中心に襲った竜巻による被害から、6日で1か月となる。県のまとめによると、5月31日現在、この竜巻で同市で男子中学生(当時14歳)が死亡したほか、つくば市で37人、桜川市2人、常陸大宮、筑西市各1人の計41人が軽傷を負った。
建物では、つくば、常総、常陸大宮、筑西、桜川の5市で全壊202棟、半壊223棟、一部損壊987棟の計1412棟が被害にあった。竜巻やひょうによる農業被害の推計額は19市町村で計5億1118万円に上った。
被害の中心となった、つくば市では、罹災(りさい)証明発行に伴う現地調査の結果、建物被害が5月31日現在で、1030棟(うち住宅622棟)に達したことがわかった。うち全壊は181棟(同76棟)で、大規模半壊が36棟(同26棟)、半壊も182棟(同132棟)に及んだ。特に北条地区は634棟(同410棟)と全体の6割を占め、全壊111棟(同57棟)、大規模半壊26棟(同21棟)、半壊144棟(同113棟)と被害が集中した。
同市はトラック約5800台分のがれきを4か所の仮置き場に受け入れて、飛散したがれきの撤去をほぼ終えた。倒壊の危険があると判断した13棟も解体・撤去した。一方、被災者による住宅の解体・建て直しや修復は始まったばかりで、ブルーシートで覆われたままの建物が目立つ。
同市北条に設けられた避難所は5月16日に閉鎖され、仮設住宅として用意された県・市営住宅や民間借り上げ住宅に5月30日現在、36世帯が入居している。家を失ったそれ以外の被災者は、親類宅などに身を寄せて生活再建を目指している。