
「防災士」または「防災士会」は、災害時に大きな役割を果たします。しかし、都道府県の地域防災計画の中で、「防災士」「防災士会」の具体的な機能や役割、防災組織のなかでの位置づけは明確ではありません。各都道府県の地域防災計画の中では、どのように位置づけられているか、できるだけ一次情報にあたって確認しました。
結論から指摘すると、「防災士」「防災士会」を計画の中で固有名詞として明確に指定し、役割や参画の作法まで書き込んでいる自治体はまだ少数です。一方で、計画本文や資料編において、防災士を「地域防災の担い手」や「訓練・普及のリーダー」として位置づけたり、県の防災会議構成員として防災士会関係者を明記したりする先進事例は見られます。多くの自治体では、災害ボランティア・社協・NPOとの連携という広い枠での記述にとどまっており、ここに具体名と役割を与えることが、次の改定サイクルの要点だと感じます。
“防災士会”を茨城県防災会議の構成員として掲載
まず、茨城県では、防災会議の資料編に「NPO法人茨城県防災士会副理事長」が名指しで構成員(7号委員)として掲載されています。これは、少なくとも協議の場に防災士会の知見を組み込む仕立てになっていることを意味します。固有名詞での記載は希少で、実務に結びやすい先進例です(令和7年度版 資料編、構成員名簿に掲載)。
石川県は、計画の「地震災害対策編」で、防災士を地域住民と並ぶ訓練の中核と捉え、「防災士など地域住民と一体となった訓練を実施する」と明記しています。能登半島地震後の抜本見直しにより、令和7年(2025年)9月修正の最新版が公表され、訓練や受援・調整の考え方が全体に強化されました。県は計画とは別に、防災士の初任者・スキルアップ研修を継続開催し、「市町と連携し自主防災活動においてリーダーシップを発揮する防災士の育成」を政策として打ち出しています。計画本文での役割言及と、育成制度の運用が噛み合っている好例です。
宮城県など、東北のいくつかの計画は、地震編で「防災知識の普及」「訓練」「自主防災組織の育成」「ボランティアの受入れ」を章立てで整理し、住民側のリーダー養成を明確化してきました。少なくともボランティア・リーダー養成や普及啓発の体系の中に防災士が自然に組み込まれる記述構成になっています。
兵庫県は、阪神・淡路の教訓を踏まえた重層的な計画体系を持ち、地域防災計画の最新版や資料編を継続更新しています。計画本文で「県民・関係団体の役割」を明示しつつ、県の施策として「ひょうご防災リーダー講座」や防災人材の養成が長年続いており、兵庫県防災士会も地区防災計画や訓練の伴走に入っています。計画そのものに「防災士会」を固定文言として埋め込むスタイルではないものの、運用文書・関連施策で組み立てる運用実態型の位置づけといえます。
千葉県は、地域防災計画の本文で「ボランティアの協力」を丁寧に整理し、別建てで研修・受援の仕組みを整備してきました。県外郭の連絡会や消防学校の研修プログラム等で地域防災リーダーを継続的に育成し、計画本文と育成・連携の運用をつなぐ考え方です。ここも「防災士会」を固有名詞で書き込むより、受援・協働の枠組みの中に実装している類型に当たります。
全国の都道府県を概観すると、地域防災計画の本文に「防災士会」という団体名や、災害対策本部における具体の班配置、立ち上げトリガー、連絡先、資機材・交通手段の優先付けといった運用条件までを書いた自治体は多くありません。現場の受援調整や避難所支援を機敏に動かすためには、ここを「中間支援組織(VOAD等)」の規定とセットで、さらに一歩踏み込んで明文化していくことが重要です。
計画本文に固有名詞で明記できないのであれば、資料編や付属要綱で「防災士会(県支部)」の役割、派遣窓口、研修・資格の扱い、社協との役割分担を定め、災害対策本部のどの班と常時・非常時に接続するかまで明確にする必要があります。
来年度の改定では是非、茨城県地域防災計画に「防災士」「防災士会」を明確に位置づけていただきたいと提案します。