北茨城市の茨城県天心記念五浦美術館で開催されていた「ウォルト・ディズニー展」が、10月8日、最終日を迎えました。
この展覧会は、東日本大震災からの復興支援を目的に、ウォルト・ディズニーの生誕110周年を記念して開催されました。8月18日からの2ヶ月間にわたる開催期間中、最終日の8日の午前中には、入館者が10万人を超えました。
8日午後、井手よしひろ県議は閉館間近の五浦美術館を訪れ、吉川常英館長より、「ウォルト・ディズニー展」の概要と大成功に至った経緯などを伺いました。吉川館長は「青年時代の貧困や戦争などの苦難と挫折の時代を乗り越えて、世界中に夢と希望を与えたウォルト・ディズニーの生き様は、震災から逞しく復興しようとする北茨城などの被災地のみなさんへの力強いエールとなったものと確信します」と語りました。さらに、「この展覧会を成功させるために、北茨城市や観光協会、旅館業組合など多くのボランティアの献身的な協力があったことも成功の要因でした。美術館の職員も、期間中、毎週月曜の休館日を返上したり、金曜・土曜日は夜8:00まで開館するなど、協力を惜しみませんでした」と語りました。
ウォルト・ディズニー(1901-1966)は、アメリカのイリノイ州シカゴに生まれました。ミッキーマウスなどの人気キャラクターを生み出すとともに、「白雪姫」「ピノキオ」「シンデレラ」「ダンボ」など、数多くの長編アニメーションを世に送り出してきました。その後、ウォルト・ディズニーは、その作品を通して描き続けた世界観をもとに、「ディズニーランド」という夢と魔法の国=テーマパークを建設し、今も世界中の人々に愛され続けています。
青年時代のウォルト・ディズニーは貧困や戦争の混乱など、時代の荒波に翻弄されながら苦難と挫折を味わっています。「夢をもつことが全ての始まり」という彼の言葉の通り、夢に向かって何度も立ち上がり、歩みを進めたウォルトの人生は、未曾有の大震災に被災した多くの人々に勇気と希望、安らぎを与えてくれます。
ウォルト・ディズニー作品と世界恐慌・ニューディール政策の考察
ウォルト・ディズニーの最初の成功は『白雪姫』でした。1937年に公開された白雪姫は大ヒットを遂げています。白雪姫は100万ドルの制作費を掛け、のべ200万人の観客を動員し、その興行収入は800万ドルに上りました。
ディズニー・アニメがヒットし始めたのは、アメリカ全体が不況の波に襲われていた世界恐慌の時期からです。一方、ヨーロッパではナチスドイツが対応しており、日本も軍国主義路線に傾注し始めていました。こうした社会的不安の中で多くのアメリカ人は、継母の悪意にさらされている白雪姫に、憐れみと同情の気持ちを抱くことによって、精神的安らぎを覚えていたと推察することができます。
ウォルト・ディズニーは1917年、15歳のときにアメリカ、カンザスシティーで白雪姫の実写映画を観たことがあり、それが最初の長編アニメに白雪姫を選んだ動機になったといわれています。白雪姫の冷酷な親や厳しい社会環境、苦労に満ちた日常生活は、そのままウォルト青年の実体験の反映でした。一転して、王子様との出会いやその後のファンタジーの世界への飛躍は、ウォルトの願望と言っても過言ではありません。ウォルトにとってのサクセスストーリーでありアメリカンドリームであったのかもしれません。
反面、大好況の時代に当時にアメリカ政府が取ったニューディール政策も、ウォルト・ディズニーにとって大きな追い風となりました。ニューディール政策とは、1929年に始まった世界大恐慌を克服するため、33年からアメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領が実施した総合的な経済対策。「新規まき直し」を意味しています。この経済対策では、テネシー川流域でのダムや橋の建設など大規模な公共事業が実施され、多くの雇用を生み出し経済再生を促しました。さらに、国を挙げて文化芸術の振興策も推進し、世界的に知られるミュージカルや映画などの礎が築かれました。
1934年の冬、ウォルト・ディズニーは、50人の制作スタッフを集め「白雪姫」の構想を発表しました。彼は白雪姫に出てくる登場人物になりきり、3時間熱演したと言われています。終了後、スタッフはすっかり心を奪われ制作に没頭。制作には3年の月日がかかりました。恐慌の影響で優秀な人材が多く確保でき、初の長編アニメーション映画の質は飛躍的に向上しました。
世界恐慌と戦争の影に怯える人々の心を、ディズニー映画は捉えました。白雪姫はこれまでの映画では考えられないような成果を勝ち得たのです。1938年1月23日付ニューヨークタイムズ紙は「映写機が回っている間にも、戦争は勃発し犯罪は発生し、憎悪は燃えあがり、暴動が起きている。しかしディズニーが魔法を使い魔法が効き始めると、現実世界は消滅する」と最大限の賛辞を贈りました。
大震災から復興期にある日本の現状を考える時、ウォルト・ディズニーの生きた時代を振り返ることの意義は大きいと実感します。
(ウォルト・ディズニーと「白雪姫」に関する記述は、「ディズニー映画のプリンセス物語に関する考察」李修京、高橋理美、2010年8月31日を引用・参照させていただきました)