「安全と効率」の両立堅持こそ重要
国民年金と厚生年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用改革に注目が集まっています。
2012年11月の有識者会議の提言を受けて、これまでの国債中心の運用を見直し、国内株式の比重を高める動きが加速しているからです。
GPIFは、平成25年度末で128兆5790億円の運用資産を持つ世界最大規模の年金基金です。長期的な観点からの資産の構成割合(基本ポートフォリオ)は現在、国債など国内債券60%プラスマイナス8%、国内株式12%+-6%、外国債券11%+-5%、外国株式12%+-5%、短期資産5%と定められています。
GPIFが国内株式の保有を1%増やすだけで、株式市場には1兆円以上の資金が流入することになります。株高への追い風になるとみられており、今月末に閣議決定される政府の新たな成長戦略にも盛り込まれる予定です。
現在、デフレ脱却は着実に進んでいます。近い将来、長期国債の金利上昇(国債価格の低下)が予想されるなかで、GPIFの国債中心の資金運用は得策とはいえません。また、日銀の「異次元の金融緩和」によって、株価上昇が起こり、企業の再生、業績の好転がもたらされ、それがさらに株価上昇につながる好循環が期待されています。
株式の保有比率が低いままでは、利益を得るチャンスを逃す恐れもあり、投資の効率は良くありません。政府としては、成長戦略にGPIFの積立金運用を連動させたいところです。
年金財政において、現役世代の保険料水準を固定化し、受給世代にはできるだけ高い給付水準を保つためには、運用収益と積立金の活用は不可欠であり、GPIFの役割は非常に重要です。しかし、その資金運用に当たっては、効率とともに安全も求められていることを忘れてはなりません。
世界的な経済危機に見舞われると、株価は暴落します。長期的には回復するとしても、株式の保有割合を高めることばかり強調されると、安全運用への不安を招きかねません。マネーゲームに国民の大事な資産を投じることは許されません。
運用見直しといっても、GPIFが、国内株式の保有割合を一挙に増やしたり、株式一辺倒でいくということではなく、基本的には国債中心で安全な運用をめざす姿勢に変わりはありません。
運用のプロの採用をはじめとする体制の強化や投資先の監視など、GPIF改革への期待は大きなものがあります。効率を追求しながら、安全を重視していく姿勢をGPIFはさらに発信していくべきです。
GPIFは、厚生労働大臣から寄託された年金積立金の管理及び運用を行うとともに、その収益を年金特別会計に納付することにより、厚生年金保険事業及び国民年金事業の安定に資することを目的としている組織です。
今や、高齢者世帯の所得の7割を年金が占めており、年金制度は国民生活を支える基盤として、わが国社会に広く定着しています。
その年金積立金は、将来の年金給付の貴重な財源となるものですので、GPIFは年金加入者の利益のために最善の努力を尽くして受託者としての責任を果たすことが創設の原点です。
資金運用は経済環境などに左右されますので、短期的な収益状況の変動は避けられません。GPIFは、長期的な観点に立った分散投資を基本とし、適切なリスク管理を行い、年金積立金の安全かつ効率的な管理及び運用に努めています。
また、独立行政法人としての特性も活かしながら、効率的な事業運営を行うとともに、国民への積極的な情報開示が不可欠です。
GPIFは、年金積立金の管理及び運用を通じ、年金制度の財政の安定、ひいては国民生活の安定に貢献するという使命を持っているのです。
