いわゆる合法ドラッグと称して販売される「危険ドラッグ」の濫用が、若い世代を中心として、急速に広まっています。これに起因する健康被害や事件・事故などが、大きな社会問題となっています。去る6月24日、JR池袋駅付近で、「危険ドラッグ」を使用したと疑われる者が運転する自動車が暴走し、多数の死傷者を出した痛ましい事故は、記憶に新しいところです。新聞報道によれば、2012年以降、全国において、少なくとも41人が、この「危険ドラッグ」を濫用して死亡した疑いがあるとされています。今後の更なる拡大が大変危惧されます。
この「危険ドラッグ」は、主として、首都圏における店舗において、また、インターネットを介して販売されています。茨城県内でも、その販売店舗複数が確認されています。
この問題については、その引き起こす事態の甚大さも大きな問題ですが、その対応も難しい課題となっています。それは、規制薬物の化学構造の一部を変えて、法規制の網を逃れる新たな薬物が次々と開発されるため、対策が後追いになることです。
「危険ドラッグ」の販売などの疑いで摘発したものの、起訴に至ったのはわずかにその2割足らず、他の薬物事件と比較すると著しく低いという状況にあります。
こうした中、国においては、薬事法に基づき、規制物質についての指定の迅速化や検査命令制度の活用など、規制強化の取り組みを始めたところです。しかし、これも、対策が後追いとなる現状の問題を解消するには至らず、未だ抜本的な対策が見い出せていないという状況にあります。
この「危険ドラッグ問題」は、ひとたび事が起これば、死に至るような深刻な事態を引き起こしかねない重大な問題です。未然防止策の整備は急務です。
国においては、「危険ドラッグ」の疑いのある商品の販売を一時停止できるよう薬事法を改正するなどの抜本的な対策をとる必要があります。アメリカやカナダでは、似たような作用を体に及ぼすのであれば、ひとまず規制し、摘発する制度がとられています。薬物の危険度については、裁判できちんと審理するやりかたです。また、イギリスでは、早い段階でとりあえず製造や販売を禁止する「一時的禁止」という制度が導入されています。仮処分のようなものです。それから毒性などを調べて、危険だと分かれば改めて規制するの仕組みです。日本でも、欧米の対応参考に、まず販売に待ったをかける体制整備を急ぐべきです。
また、規制のための人材や機材の充実も図らなくてはなりません。例えば、取り締まりを行う厚労省関東信越厚生局麻薬取締部には、分析機器は2台しかなく、1台は覚せい剤専用、もう1台が危険ドラッグを含む指定薬物の検査用です。これでは、迅速な対応ができません。
さらに、危険ドラックの蔓延の背景には、インターネットの悪用があります。ネット利用者から違法・有害情報に関する通報を受理し、警察への通報やサイト管理者などへの削除依頼を行う「インターネット・ホットラインセンター」の監視対象に、危険ドラッグを加えることが重要です。ネットでの危険ドラック販売を抑止する仕組みづくりが大切です。
東京都:危険ドラッグ 改正条例が可決
なかなか進まない国の対応に対して、10月3日東京都議会は、危険ドラッグへの対策を強化する「東京都薬物の濫用防止に関する条例の一部改正案」を全会一致で可決しました。来年1月1日から施行されます。
改正条例は、警視庁の警察官が単独で危険ドラッグ販売店に立ち入り調査できるようにするもので、警察官に行政上の調査権を与えることで販売店への監視強化を図ることが目的です。
また、販売や使用、所持などを禁じた「知事指定薬物」について、この薬物に指定するには、都薬物情報評価委員会の審議が必要で、指定まで数カ月かかっていました。このため次々に出る新たな薬物に規制が追い付かないという課題がありました。改正条例では評価委員会の審議を省略し、幻覚などをもらたらす有害な成分が検出された場合は、知事の判断で速やかに規制できる「緊急指定」の規定を盛りこみました。