今年(2015年)4月、生活困窮者自立支援法が施行されました。生活困窮者自立支援制度は、生活する上でさまざまな困難を抱える人を地域で自立して生活できるように、個々の状況に応じ、その人の主体性を尊重しながら、相談・支援する制度です。
今、日本では、所得が平均的な水準の半分以下の相対的貧困と呼ばれる層が16.1%に達し、とくに現役世代の単身女性は、3人に1人が相対的貧困となっています。しかも、こいうした貧困が、孤立やあきらめを生み、そのためにますます貧困から脱却できなくなるという負のスパイラルが存在します。20歳から59歳までの未婚の無職者で、家族以外とのつながりがほとんどない人々が162万人にのぼり、そのうち4人に1人が生活保護の受給を希望しているという、大変深刻なレポートもあります。
例えば、急に家族の介護が必要になり、所得が減り、自分自身もストレスで参ってしまう。このように複数の要因が連鎖すると、だれでも生活困窮につながる可能性があります。今まで日本には、生活が著しく困窮したときに頼ることができる制度は、生活保護しかありませんでした。
生活保護は最後のセーフティネット(安全網)です。最低生活保障のためのたいへん大事な制度ですが、そこには困窮から脱却していくことを支援する仕組みはありません。生活困窮者自立支援法は、この最後のセーフティネットのいわば手前に、もう一つのセーフティネットを張ろうとするものです。それは、人々が元気を取り戻すことを支え地域社会と雇用へ繋ぎ直す、トランポリンのような仕組みです。
生活困窮者自立支援法では、自治体には「必須事業」として、自治体に総合相談窓口の設置を義務付けました。相談者の自立に向けたプランを作成し、必要な就労支援や福祉サービスにつなぐ、離職などにより住居を失った人、または、その恐れのある人には家賃相当の給付金を一定期間、給付するなどが具体的な内容です。
一方、「任意事業」として、(1)就労に向けた訓練(2)ホームレスらへの宿泊場所や衣食の提供(3)家計に関する相談・指導(4)生活困窮世帯の子どもへの学習支援―など。その他、困窮者の自立支援の促進に必要な事業を行うことができるとしました。
ところが、肝心な「任意事業」が立ち上がりません。生活困窮者自立支援法の4月時点での事業実施状況調査がまとまりました。
参考: 生活困窮者自立支援制度の事業実施状況について
この調査によると、相談窓口は設置したけれども、43%の自治体が一つも任意事業を実施していないことが判明しました。相談を受けても、自立支援につなぐ支援策がなければ制度本来の力が発揮されません。ちなみに茨城県内で任意事業を行っている自治体は一つもありません。
今年度中に、新たに任意事業を立ち上げる場合には、国庫補助の追加協議を行われます。茨城県議会公明党としても、県を始め県内市町村に働きかけていと思います。
生活苦によるひとり娘殺人事件を教訓に
6月12日、生活に困窮して家賃を滞納し、千葉県の県営住宅から強制退去させられる当日、中学2年の一人娘を殺害したとして起訴された母親の判決が千葉地裁で言い渡されました。この事件が起きたのは昨年9月です。報道によると、別れた夫の借金を抱え、娘の制服を買うためにヤミ金融にも手を出し、健康保険の担当部局ではこの親子の窮状を把握していたけれども、生活保護の担当部局と情報共有されておらず、生活保護の窓口に母親が来たときには一般的な制度の説明だけしかなされていませんでした。
また、県営住宅であったこともあり、千葉県と銚子市との連携も不十分であったと伺いました。まさに、制度と制度の狭間の問題です。いくつかの行政部署と接触があって、窮状を把握することができた可能性があったのに、救えなかったというのは本当に残念で残念でなりません。
今回の事件を受け、国土交通省は昨年11月、公営住宅の滞納家賃の徴収における留意事項等において、公営住宅のある市区町村と緊密な連携を図りつつ、生活保護をはじめとする居住安定のための支援策の情報提供や助言等を行うなど、特段の配慮を要請する事務連絡を各都道府県住宅主務部長宛に発出しています。
厚生労働省においては、6月19日からブロック毎の地方自治体担当職員向けの説明会が実施されています。その中で、今回の事件へどう対応すべきだったのか等事件の教訓から必要な対応をとりまとめた資料が配布されています。
今回の事件のように、切迫した状況であるにもかかわらず、「助けて」と声を出せない方は沢山います。相談する先もなく、混乱し、思い詰めてしまい、今回のように最悪の状況に至ってしまう場合があるのです。
だからこそ、生活困窮者自立支援制度においては、行政は「待ちの姿勢」ではなく、より積極的に支援を届けるという、いわゆる「伴走型」の支援、アウトリーチ型の支援が不可欠なのです。
つまり、生活困窮者自立支援制度における自立相談支援事業は、相談窓口を設置で終わるものではなく、困窮されている本人の立場に立ち、時に、本人を代弁して関係機関と積極的に調整する役割を担い、必要な支援までつなげ、「たらい回し」を防ぐ。これが求められているのです。
支援や体制整備の遅れが命に関わるようなことになってはなりません。生活困窮者自立支援法が施行した限りは、絶対にこのような痛ましい事件を二度と起こさない。自治体は努力すべきです。
現場に一番近い場所にいる地方議員として、声無き声を聞く姿勢と生活困窮者自立支援制度の内容充実に全力を上げてまいりたいと思います。
(このブログは、山口香苗参議院議員から資料提供を受け掲載いたしました)
参考:生活困窮者支援法について(政府広報オンライン)