11月17日、参議院のTPP協定に関する特別委員会の地方公聴会が、水戸市内のホテルで開催されました。井手よしひろ県議は、高崎進県議らとともに膨張し、全国第2位の農業産出高を誇る茨城県にとっても重要な問題であるTPP協定に対する理解を深めました。
各政党が推薦した4人の公述人のTPP協定に対する意見を伺いましたが、野党が推薦した公述人には、正直落胆させられました。国会審議の公述人であるからには、専門的見地やその地域の特殊性や特徴を生かした現実的な声が聞かれるものと期待しましたが、その主張は多くは伝聞や政党の主張そのものでありで、すでに国会で議論が尽くされたり、政府答弁で一定の方向性が示されたものの蒸し返しでした。
一方、龍ケ崎市でコメの大規模栽培を行っている農業法人代表は、「TPP協定によるコメへの影響は、それほどでもないのかなと感じている。農業者は今後、経営面で最大限の努をし、経費を効率化させていけば、海外と価格競争ができる可能性もあるのではないか」と述べました。コメの専業農家にもかかわらず、TPPが締結されたとしても、農業経営者の手腕ひとつで日本の農業は成り立つと発言。茨城の農家の力強さを実感しました。
野党の公述人が指摘していた、食品・農産物の原産地表示と遺伝子組み換え食品に関する2つの項目は、私たちの生活にも身近であり、国民にも理解が進んでおらず、誤解も多いようです。野党もことさらTPPの欠点として指摘しているようなので、このブログでは現在までの議論をまとめてみたいと思います。
TPP発効後も食の安全などにかかわる国内ルールは尊重される
そもそも、政府はTPP協定では、国ごとに異なる「食の安全」の基準について、「日本の現行制度を変更する必要はないことで合意した」と説明しています。TPP協定案では、輸入食品の安全基準について、世界貿易機関(WTO)の指針や基準を考慮すると定めているからです。このため、WTOのルールに基づく日本の現行制度を変える必要はなく、日本で認められていない農薬や食品添加物が使われた食品が新たに輸入されることははありません。
遺伝子組み換え農作物を使った食品かどうかを表示するルールも変更はありません。アメリカでは、トウモロコシや大豆の約9割は、増産などを目的に遺伝子を組み換えた品種とされています。遺伝子組み換え農作物を使った食品かどうかを表示するルールは日本より緩いのが現実です。そこで、日本は、遺伝子組み換え農作物を使った食品の大部分に表示義務を課していますが、TPP発効後はアメリカ並みにルールが緩和されてしまうのではないとという心配が、その根幹にあります。
TPP協定案は、各国の法令や政策の修正を求めるものではないと明記しており、食品や農産物の原産国表示や遺伝子組明け食品の表示ルールは維持されることが明確になりました。
また、参加国は、各国が承認している遺伝子組み換え作物の一覧表を公表することも明示されました。日米などは明示しているが、新興国では十分に整備されていないケースもあるためで、各国の消費者がそれを確認できるようにするのが目的です。
未承認の作物が輸入品にわずかに混入した場合でも、輸入国の政府は輸出国の政府を通じて生産した企業に情報提供を求められると定めています。政府は「情報を基に早急な対策が講じられる」と説明しています。
ただ、農作物を巡る輸出入に関する規定の中には、自国の貿易に悪影響を及ぼす可能性がある場合、「協力的な技術的協議を開始できる」という項目があり、野党や一部消費者団体は「日本向けの輸出を増やしたいアメリカなどが、日本の安全基準に干渉できる余地を与えている」として問題視しています。
17日の地方公聴会の中では、こうした議論を無視して(または理解せず)、TPPが発効すれば原産地表示や遺伝子組み換え食品の表示が、すぐにでもなくなるような発言が目立ちました。国民の不安をあおる発言であり、傍聴席の一部からもため息が漏れていました。
ただ、一般国民に対するこうした懸念を払拭することは重要です。政府のより丁寧な説明、マスコミなどによるわかりやすい説明が必要です。
政府はTPP対策として、加工食品の原料原産地表示対象を拡大
また政府は、TPP関連対策として、消費者が国産農産物を選ぶことができるよう、加工食品の原料原産地の表示対象を拡大する方向で検討しています。レトルト食品やケチャップ、ソーセージと、食卓に欠かせない加工食品。消費者が安心して口にできるよう、原産地の「見える化」を着実に進める必要があります。
現在は一部にのみ義務付けられている加工食品に関する原材料の原産国表示について、消費者庁と農林水産省は11月5日、対象を原則として国内で製造する全ての加工食品に広げるとした素案を有識者検討会に提示しました。
生鮮食品は全て原産地表示が義務付けられていますが、加工食品では野菜の冷凍食品など全品目の2割程度にとどまっています。今回提示された素案は、これを全品目に拡大するものです。具体的には、製品に占める重量の割合が最も大きい原材料のみの原産国表示を原則として義務付けるとしています。
TPPが発効すれば、外国産の農産物や食品の輸入増加が予想されます。食の安全に対する関心が高まる中、原産国表示の対象が拡大されることは、消費者の不安を解消する上で大きく役立つに違いありません。今回の素案について、生産者団体や消費者団体も「商品の適切な選択に役立つ」と、おおむね歓迎しています。
一方、事業者側の懸念は小さくありません。中でも複数の外国産の原材料を切り替えながら使用している事業者団体からは、「対応が難しい」「コストが増えて経営悪化につながる」といった声が上がっています。
このため素案では、1カ国のみを特定した表示が難しい場合、例外的に「A国またはB国」「輸入」といった表示を認める考えも示しています。消費者のニーズに応えるという前提は維持しながら、効率的な表示方法の設定を通して事業者の負担を軽減し、実現可能で無理のない制度とすることも考慮することが重要です。
事業者が混乱しないよう、制度の骨格が固まり次第、丁寧かつ速やかな周知徹底も必要となります。表示ルールの変更に伴う負担感が比較的大きいと予想される中小企業・小規模事業者への支援策も検討する必要があります。
こうした加工食品の表示見直しも、当然TPP発効後も継続されることは言うまでもありません。