南スーダンPKOに派遣される自衛隊第11次隊に与えられた新たな任務「駆け付け警護」について、先日ご質問を受けましたので、改めて整理してみました。
2015年成立した平和安全法制の一貫としてPKO法改正で規定されたのが「駆け付け警護」です。「駆け付け警護」 は、危険に遭った文民の要請で応急的、一時的にその生命を守ることが役割です。
内戦を経て2011年7月に独立した南スーダンの平和は、アフリカの平和にとっても重要です。南スーダンPKO(以下PKO)には60カ国以上が参加し、日本も2012年1月から施設部隊を派遣。道路整備や避難民向け施設づくりを担当しています。
このPKOの文民要員やNGO(非政府組織)等の活動関係者が暴徒に襲われた場合、原則として現地警察と軍が保護に当たり、PKOの歩兵部隊が補完します。
そもそも自衛隊の施設部隊の任務は治安維持ではありません。しかし、近くで活動関係者が襲われ、警察や歩兵部隊などが不在という極めて限定的な事態が起こる可能性はあります。国連職員などとして首都・ジュバに滞在する約20人の邦人にもその危険性があります。その時、助ける能力があるのに何もしないわけにはいきません。過去に、東ティモールPKOに参加した自衛隊が、不測の事態に直面した邦人から保護を求められ、できる範囲内で安全な場所まで輸送したことがあります。
そこで今回、緊急の要請を受け、人道的観点から応急的、一時的な措置として保護する「駆け付け警護」を新たな任務として与えました。ここで重要なのは、新たな自衛隊の部隊が「駆け付け警護」を目的に派遣されるわけではありません。まして、“派兵”などという表現は明らかに間違っています。
当然、派遣される隊員は、治安情勢が乱れ有意義な活動ができなくなれば撤収します。
「駆け付け警護」に当たる自衛隊員の装備は自己防護のための拳銃、小銃、軽機関銃であり、「駆け付け警護」はその能力の範囲内で可能な対応をするだけです。激しい武力衝突に対応できる装備ではありません。
また、治安維持の能力がない施設部隊が、自己防護能力をもっている他国の軍人を「駆け付け警護」することも想定されていません。
さらに、どこにでも「駆け付け」るわけではなく、施設部隊の近く(近傍)です。今回「駆け付け警護」を与えられた第11次隊は、防衛相の命令により、活動地域を治安情勢が比較的安定している「ジュバ及びその周辺地域」に限定されました。
7月にはジュバの治安が悪化していると伝えられています。日本政府は、今後の状況は楽観できず、引き続き注視する必要があるが現在は比較的落ち着いていると説明しています。また、国連もPKOの継続を決め、南スーダン政府のPKO派遣同意も維持されています。
日本政府は今回の閣議決定で、公明党の意見を踏まえ、PKO参加5原則が満たされていても、安全を確保しつつ有意義な活動の実施が困難と認められる場合には、自衛隊を撤収させることを実施計画に明記しました。
一部に、戦争に巻き込まれるのではないかとの懸念があります。
戦後の復興支援が任務であり、そもそも“戦争”とは言いません。「駆け付け警護」について、自衛隊が「殺し殺される」最初のケースになりかねないと、共産党などは批判しています。PKOに派遣されている自衛隊員に許されているのは自己防護のための武器の使用と、今回、新たな任務として与えられた「駆け付け警護」での武器の使用です。自己防護は自分の生命を守るという当然の権利の行使であり、「駆け付け警護」は、人道的視点から応急的、一時的に実施する任務です。どちらも、自分の命、また、助けを求めている人の命を緊急的に守るためのやむを得ない、ぎりぎりの場合です。それを「殺す」「殺された」と言うのでしょうか?
また、海外での武器使用にあたるとの声もあります。武力行使とは、国際紛争を解決する手段として武器を使うこと、簡単に言えば戦争で武器を使うことです。そもそもPKOは、戦争や内戦が終わった後に国連が実施する活動です。国連はもとより、どこの国もPKOを戦争とは考えていません。
日本は1992年成立のPKO協力法から自衛隊のPKO派遣を続け、世論調査でも8割以上の国民がPKOを正しく理解し、自衛隊の参加を認めています。PKO活動と戦争を一緒にして不安を煽るべきではありません。
PKO
PKO(国連平和維持活動:United Nations Peacekeeping Operations)は一般的に、戦争や内戦の武力紛争が終結した後、不安定な平和を維持するために、国連が軍事部隊を派遣して停戦監視などをする活動で、道路や公共施設の復旧を支援することも多い。武力紛争の鎮圧が目的ではありません。
PKOは、①紛争当事者の停戦合意②PKOの派遣同意③PKOの中立性確保――が原則。日本は、④として①~③のどれか一つでも崩れた場合の撤収⑤武器使用は護身に限定――を加え、PKO参加5原則として1992年成立のPKO協力法に規定しました。5原則の法制化は公明党の主張で実現しました。
南スーダンの場合、日本政府は「そもそも紛争当事者となり得る組織はなく、武力紛争が発生したとは考えていない」と判断。PKOの派遣同意についても「安定的に維持されている」と認めています。
武器の使用
「武器の使用」と「武力の行使」は厳格に使い分けられています。「武力の行使」とは、国際紛争を解決するために武器を使うことで、いわば戦争の場合に使われる。自衛隊の場合、他国から攻撃を受ける武力攻撃事態などに限って「武力の行使」が許されます。一方、「武器の使用」とは、戦争ではなく治安を守ることを職務とする警察官が武器を使うことをいいます。
自衛隊が「武器の使用」をする場合もあります。その典型例がPKOだ。「武器の使用」のあり方は、自衛隊法や警察官職務執行法で厳格に定められています。「武器の使用」では、人の生命・身体に危害を与える射撃(危害射撃)は、正当防衛と緊急避難の場合以外は許されません。「駆け付け警護」で認められるのも「武器の使用」であるため、例えば、暴徒鎮圧のために狙い撃ちをすることなどは許されません。