性犯罪と闘う社会を築く第一歩に――性犯罪の処罰を110年ぶりに厳罰化した改正刑法(6月16日成立・23日公布)が7月13日から施行されることになりました。改正刑法が実現した背景には、男性も性犯罪の被害者になり、また、子どもが家庭内で被害に遭っている事実を自身の経験を通して語り、新たな性犯罪処罰の確立を訴えてきた被害者の勇気ある行動がありました。
被害者の訴え/時代状況に合わない法律が苦しみを倍加
「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし(以下略)」などと定められた刑法(1907年制定、1908年施行)の性犯罪処罰規定は、時代状況と社会意識の変化から取り残されていました。
「暴行又は脅迫が強姦の要件であるため、恐ろしくて、また恥ずかしくて無抵抗でいると、裁判で『合意の上だった』などと言われる」「性的マイノリティーの男性への性的暴行も精神的ダメージは強姦と変わらないのに、より軽い強制わいせつ扱いにされる」といった性犯罪被害者の憤りは増すばかりだした。
ヨーロッパ諸国では1960年代末から性犯罪規定は根本的に改正されてきました。「諸外国における『性刑法』の発展と比べたとき、日本は、何度も『列車に乗り遅れた』」(井田良『慶應法学第31号』2015年)などと批判も強くあります。
また近年、国連の各種の人権委員会が、性犯罪の「厳罰化」「非親告罪化」「男性に対する強姦の犯罪化」――などを提起。政府も第3次男女共同参画基本計画(2010年12月)の中で「女性に対するあらゆる暴力の根絶」を掲げ、強姦罪の見直しなどの検討を掲げました。
これを受け法務省は2014年から検討を開始し、被害者からも意見を求め、性犯罪を厳罰化する改正案をまとめました。
厳罰化の意義/人間の尊厳を守るとの強い姿勢を国民に示す
改正刑法は厳罰化によって性犯罪を抑止するだけでなく、性犯罪に対する国民の意識改革を促すことも期待されています。
例えば、法務省の検討会では、強姦罪を従来通り、性的自由を侵害する犯罪と考えるのではなく、「人間の尊厳に対する罪と考えるのが、被害者の実感としては強い」(『報告書』2015年8月)との認識が共有されました。また、「強姦罪の行為者・被害者について性差を解消し、男性器の女性器への挿入以外の行為についても、強姦罪と同様の刑で処罰すべきものがある」(同)との意見が多数を占めました。
この「人間の尊厳を守る」との考え方が国民の間でも広く共有される必要があります。
また、性犯罪を親告罪から外した意義も大きい。親告罪とは被害者の告訴がなければ、検察官が刑事裁判を提起(起訴)できない制度です。裁判で傷つく可能性が高い被害者に、起訴の判断を任せていました。
しかし、告訴の判断が重荷になって泣き寝入りしたり、加害者側から示談を迫られるなど精神的につらいとの声を受け、今回の改正で非親告罪化されました。これも「性犯罪は絶対許さない」との強いメッセージになります。
“強姦”の罰則強化
改正刑法は、強姦罪を「強制性交等罪」に変更し罰則を強化、性犯罪の親告罪規定を削除、監護者わいせつ罪と監護者性交等罪の新設――が主な内容です。
【強制性交等罪】強姦は女性に対する姦淫行為(性交)であり、加害者は男性に限られていまし。改正刑法は性交だけでなく、性交類似行為も処罰の対象にするため、明治以来の強姦罪をなくし、強制性交等罪に変更しました。これによって、男女ともに加害者、被害者の両方に含まれることになりました。
性交の類似行為は、これまで強制わいせつ罪として扱われ、強姦罪より罰則も軽くなっていました。今回、濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いる性交類似行為も、強姦と同等の悪質性、重大性があると考えられるため、強制性交等罪として厳しく処罰することになりました。
また、強姦罪の法定刑は下限が懲役3年でしたが、強制性交等罪は同5年に厳罰化されました。
【親告罪規定の削除】被害者の告訴なしに、検察は裁判を提起することができるようになります。
【監護者性交等罪】親など子どもを現に監護している者が、その影響力を利用して18歳未満の子どもに性交やわいせつ行為をした場合、暴行や脅迫がなくても処罰できる監護者性交等罪と監護者わいせつ罪を新設しました。 従来、暴行や脅迫がなければ、こうした行為は量刑の軽い児童福祉法違反で処分されていました。
国重徹・公明党法務部会長に聞く/暴行、脅迫の適切な認定を求める
性犯罪の厳罰化を定めた刑法の改正は、性犯罪と断じて闘う社会をつくるための確かな一歩になると思う。
公明党は性犯罪被害者との意見交換を重ね、「日本は性犯罪が諸外国ほど罰せられず、被害者が声を上げられない」「被害直後に身動きが取れなくなる不動反射(フリーズ反応)が起き、抵抗できないケースもある」「親告罪は被害者の心理的負担が大きい」「親から性的暴行を受ける子どもを守るには、児童福祉法では不十分だ」などの切実な声を聞いた。
今回の改正は、こうした声に応えた。
暴行、脅迫がなくても強制性交等罪で処罰すべきだとの声もありましたが、今回の改正では見送られた。その理由は、暴行、脅迫の要件がないと冤罪の可能性が高くなるからだ。
しかし、被害の実態に応じて暴行、脅迫を適切に認定することで「抵抗がなかったから暴行、脅迫はない」といった一方的な主張を封じることはできる。事実、抵抗がなくても強姦が認められた例もある。
公明党は国会審議の中で暴行、脅迫の適切な認定を求め、その結果、衆参の付帯決議で、認定に関し心理学、精神医学の知見について調査を進め、それに基づき裁判官、検察官、警察官の研修を行うことが明記された。
家庭内で親などから受ける性的暴行は、それが暴行かどうかさえ子どもには理解できない。親としての影響力に乗じて行えば暴行、脅迫も必要ないだろう。暴行、脅迫がなければ強姦ではないため、従来は児童福祉法違反で処分されていた。
改正刑法で新設された監護者性交等罪は、事実上、18歳未満の子どもを監督、保護する関係にある者が、その子どもに対して性交等をした場合、暴行、脅迫がなくても強制性交等罪と同様に処罰することができる。
これは、家庭内のことであっても、児童虐待は犯罪であるとの強いメッセージを発したことになる。これが児童虐待の歯止めになることを期待したい。
性犯罪はなかなか表面化しない。そのため被害者に寄り添う相談場所が必要不可欠で、政府がめざしているワンストップ相談センターの全都道府県への設置を進めていきたい。