9月5日、公明党の厚生労働部会と造血幹細胞移植、再生医療の両推進プロジェクトチーム(PT)は合同会議を開き、茨城県つくば市に所在していた民間の臍帯血バンク”つくばブレーンズ”から預けられていた臍帯血が流出し、無届けの再生医療が行われた事件について厚労省の説明を受け、対応策について検討しました。出席した議員らは全容解明と再発防止を求める意見が相次ぎました。
この事件では、複数の医療機関が美容やがん治療と称し、へその緒と胎盤に含まれる臍帯血を用いて無届けの再生医療が行われていました。再生医療の計画届け出を義務付けた再生医療安全性確保法に違反した容疑で、8月下旬に医療品販売業者や医師らが逮捕されています。
臍帯血は、保管委託契約を結んだ本人やその親族の治療用として有料で預かる「民間バンク・つくばブレーンズ」が経営破綻し、そこから流出したとされるものです。本人同意なく医療機関に販売されていました。
席上、PTの座長を務める山本香苗参議院議員は「今回の事案と、公明党が推進してきたさい帯血の公的バンクは全く関係ない」と強く指摘。厚労省側も、「造血幹細胞移植推進法に基づいて国が許可した公的バンクでは、善意で寄付されたさい帯血を保管し、非血縁者の白血病などの治療のために提供しており、こうした不祥事は発生しない」と説明しました。
厚労省との議論を踏まえ、公明党は、①医療機関に対する再生医療安全性確保法の周知徹底、②民間バンクからのさい帯血流出の再発防止策の検討、③民間バンクとの契約に当たって、公的バンクによるさい帯血の提供体制などの情報を十分に得られる体制づくり――を要請しました。
つくばブレーンズからの臍帯血流出の経緯
井手よしひろ県議は、今回の事件の発端となった「つくばブレーンズ」を、公明党茨城県議会とつくば市議会のメンバーとともに2004年に現地調査しています(私的さい帯血バンク「つくばブレーンズ」を視察http://blog.hitachi-net.jp/archives/156132.html)。つくばブレーンズは、地元の筑波大学との産学連携を売りに1998年に設立され民間臍帯血バンクです。民間バンクは新生児が将来、病気になった際に使えるよう本人の臍帯血を長期保存するもので、当時は、最先端の再生医療を提供できる可能性があるとして、全国から注目を浴びていました。(写真は、つくばブレーンズの臍帯血冷凍保存庫)
お母さんと赤ちゃんを結ぶへその緒(臍帯)は、出産の際に医療廃棄物として捨てられていました。その、臍帯に含まれる血液を、細菌感染などが少ないクリーンな状態で、超低温で保管しておくというものです。つくばブレーンズは、一件当たり30万円で10年間保管するという契約を結んでいました。しかし、臍帯血を預ける顧客は、事前の予測通りには集まらず、初期の多額の投資を回収する計画は大きく狂いました。
つくばブレーンズは保管施設を建設した戸田建設への返済が滞り、2003年には戸田建設から仮差押を受けました。井手県議らが視察した2004年当時、すでにつくばブレーンズの経営は火の車であったわけです。残念ながら、そのような兆候を感じ取ることはできませんでした。
2008年2月、つくばブレーンズは、埼玉県戸田市の女性から運転資金の融資を受けます。付けられた根抵当権の極度額は1億円でした。女性はある不動産会社の関係者で、この会社は、福島県内の産業廃棄物処分場計画をめぐり暴力団関係者が入り乱れたトラブルで事態収拾役として登場した過去があるなど、闇社会にも通じる会社であったようです。さらに、この女性は、「再生医療技術センター」という会社を設立し、代表取締役に就任しました。
この臍帯血の利権には別のブローカーらも群がり、つくばブレーンズの経営は混迷を極めました。
こうした中、債権者である女性は強硬手段に打って出ました。つくばブレーンズの破産を申し立てたのです(私的さい帯血バンク「つくばブレーンズ」が破産手続きhttp://blog.hitachi-net.jp/archives/50961156.html)。
当時、つくばブレーンズには契約者から預かる約1000検体と、医療機関から無償提供された研究用の約500検体が保管されていたといわれています。この破産手続きの過程で、貴重な臍帯血の行方が分からなくなってしまいました。
保管されていた臍帯血はいったん「セルズアンドセルズ」という茨城県牛久市の会社が持つ施設に移されたようです。この会社の代表取締役が、今回の事件の容疑者として逮捕されている篠崎庸雄容疑者です。
このセルズアンドセルズ社も、資金不足のため2010年3月に、資金を提供していた地元の銀行の申し立てで、所有していた土地が競売にかけられています。
その直後、篠崎容疑者は「ビー・ビー」社をつくば市内に立ち上げました。この「ビー・ビー」社に、「セルズアンドセルズ」が保管していた約800人分の臍帯血が移されました。このうち、約300人分の臍帯血が、福岡市の卸売会社などを通じ、今回逮捕された医師の経営するクリニックなどに流出しました。移植を受けた患者は約30都道府県に上っているといわれています。さらには、多くの中国人にも移植されたと報道されています。移植費用は1回当たり300万~400万円。「ビー・ビー」社の販売価格はその3~5割程度でした。
臍帯血を利用した「老化防止」「美肌」「疲労回復」などのネット広告を監視
一方、公明党などの指摘を受けて、厚生労働省は、臍帯血に関連した医療を提供する医療機関のウェブサイトに虚偽や誇大な表現が含まれていないか重点的に監視する方針を決めました。
インターネット上には医師らの逮捕後も美容効果などをうたった臍帯血医療の広告が散見されています。細胞を移植するものでなければ、逮捕容疑となった再生医療安全性確保法違反とはなりませんが、有効性や安全性を誇張しているとみられるものもあり、悪質な場合は改善を指導する方針です。
臍帯血は、白血病など血液病患者への移植が治療法として広く普及していますが、それ以外で有効性が確立した医療はありません。
しかし、自由診療クリニックのサイトでは「老化防止」「美肌」「疲労回復」などの効果があるとして、胎盤の抽出液を患者に投与すると宣伝しているものさえあります。
厚労省はこうした問題を改善するため、医療機関のサイトを監視している日本消費者協会に臍帯血を使った医療を重点的に点検するように指示しました。
消費者協会は、十分な科学的根拠を示さずに効果や安全性を表示している場合、うそや誇張に当たる恐れがあるとして、クリニックに問題点を指摘します。改善されなければ自治体が継続的に指導することになります。
医療機関の広告は厳しく制限されていますが、サイトは利用者自ら検索して閲覧するため「広告に当たらない」として規制の対象外でした。しかし、美容医療を巡ってトラブルが相次いだことから、厚労省は6月、サイトも規制対象とするよう医療法を改正しました。来年6月までに施行される予定で、施行後は虚偽・誇大広告に罰則が科せられます。