1月20日に召集された通常国会に、アスベスト(石綿)対策に関する、健康被害者の救済法案と除去・被害の未然防止を促す法案が提出されました。大幅な対策費が計上された2005年度補正予算案とともに早期成立をめざし、自民・公明の与党は全力で取り組みを進めています。
患者・遺族の救済、3月末までの申請受付を目指す
アスベストが原因で発症する中皮腫などは、潜伏期間が長く、多くの現場に携わる建設労働者などは、原因企業の特定ができず、労災認定に必要な因果関係の判断が困難でした。また、健康被害は、労災の対象とならない工場の周辺住民らにまで及び、補償がなされない患者・遺族が数多く存在しています。このため、公明党は、いち早く新法による救済の必要性を主張してきました。
「石綿による健康被害の救済に関する法律案」では、独立行政法人環境再生保全機構に「石綿健康被害救済基金」を設立。「指定疾病」に罹患した患者・遺族であれば、因果関係の特定を求めず、医療費などの支給を行い“すき間のない救済”をめざすことにしています。
救済の対象となる指定疾病は、中皮腫や石綿を原因とする肺がんなど。中皮腫は、その原因のほとんどが石綿であることから、原則すべての場合を対象としていています。一方、肺がんなどの場合、石綿以外の原因の場合があるため、3月までに「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」で患者の認定基準を取りまとめる予定です。
指定疾病の認定を受けた場合、現在治療中の患者については、医療費の自己負担分と月額約10万円の療養手当が支給されます。既に死亡した患者の遺族に対しては、特別遺族弔慰金280万円と葬祭料20万円の合わせて300万円。制度発足後2年以内に亡くなり、支給額が280万円に満たない場合、その差額が救済給付調整金として遺族に支給されます。
補正予算で賀認められれば、政府は年度内(3月末までに)にも給付の申請受け付けを始める意向です。
遺族への支給に関して、政府はいったん弔慰金260万円を提示しましたが、患者・遺族の切実な声を受け、公明党は増額を強く主張。その結果、政府は、支給額の引き上げを決めた経緯があります。
給付の財源について環境省は、救済給付に充てる費用と基金の創設に関するすべての事務費を賄うため、2005年度補正予算案に388億円を計上しました。
一方、石綿は、広範囲にわたって使われてきたことから、政府は、すべての事業者に幅広く費用負担を求めることにしています。石綿との関連が深い企業からは、特別拠出金を上乗せして徴収します。算定方法などは、06年度の早い時期に決定されます。都道府県には、06年度以降、全体で約90億円、企業には、07年度から年間70~80億円の拠出を求めます。
一方、労災の申請時効の5年を過ぎた労働者遺族には、「特別遺族給付金」を労災の財源から支給します。亡くなった労働者の収入で生活をしていた場合は、年240万円の遺族年金を、それ以外の場合は、1200万円の一時金を支給します。労災補償給付の認定基準も、3月中に改正される方針です。
未然防止への対応、無害化促進、規制を強化
既存の建物などからの石綿の除去と被害の未然防止を図るため、関連4法の改正案も一括法として提出されました。具体的には、大気汚染防止法、廃棄物処理法、建築基準法、地方財政法の4法の改正案です。
それぞれ、(1)解体作業時の飛散防止対策の対象拡大(2)石綿廃棄物の溶融による無害化を促す特例制度の創設(3)建築物の吹き付け石綿の使用規制(4)公共施設の石綿除去費用を地方債の対象に追加――などの点が改正されます。
法案の閣議決定に先立ち、昨年末に政府がまとめた総合対策は、以下の3本柱が予算化されています。
①すき間のない健康被害者の救済(2005年度補正予算に388億円、06年度予93円を計上)
②今後の被害を未然に防止(06年度予算に1417億円)
③国民の不安への対応(06年度予算に4億円
救済新法と4法改正の一括法を対策の両輪とした上で、①「救済」については、労災制度の周知徹底、中皮腫抗がん剤「ペメトレキセド」の早期承認などが盛り込まれました。
②「未然防止策」としては、アスベストの全面使用禁止の前倒し(06年度中)などが盛り込まれました。
③「国民の不安への対応」としては、解体現場周辺の大気中濃度測定や健康被害者の実態調査と情報提供を行います。このほか、健康管理手帳の交付要件の見直しや石綿関連の作業に従事した退職者への健康診断なども実施します。
公明党は、2005年7月に党内に対策本部を設置。新法による救済の必要性を一貫して主張するとともに、患者の声や大手機械メーカーの担当者らからの聞き取り調査を踏まえ、小泉純一郎首相に申し入れを行いました。
さらに、政策綱領「マニフェスト2005」にも重要課題として掲げ、対策を強力に推進してきました。今回の新法制定をはじめ、政府の総合対策は、公明党の主張を全面的に反映するものになりました。
●労災時効の患者・遺族の救済 → 特別遺族年金 原則240万円/年、遺族への弔慰金を300万円に増額
●家族、周辺住民の救済 → 救済給付 医療費、療養手当など
●使用の早期完全禁止 → 2006年度中
●封じ込めと除去 → 地財法改正、低利融資制度の創設など
●解体時の安全確保 → 飛散防止へ規制を強化(大気汚染防止法改正)
●リスク評価と情報開示 → 解体現場の大気中濃度測定など
●早期診断、治療法研究 → 国立がんセンターなどの情報システムの整備
●相談体制の強化 → 労災病院内「疾患センター」引き続き実施