基金一部凍結、困惑する県
読売新聞(2009/9/12)
活用事業、先行き不透明
民主党が政権発足後の財源確保のため、国の2009年度補正予算に盛り込まれた基金の一部凍結を打ち出していることに、県庁内から困惑の声が上がっている。既に基金活用に向けて担当課は調整を始めている上に、10月定例県議会に向け、補正予算案の編成作業を行っている真っ最中。県財政課は「どの基金が完全に凍結されるのか、早くはっきりしてほしい」と訴えている。
県林政課には今月4日、林野庁から補助金に関連する事務を一時凍結する内容のメールが届いた。国の森林整備や木材産業への補助事業「森林整備加速化・林業再生基金」の先行きが不透明になっている。
国の補正予算成立を受け、県は7月、木材業者や森林組合、自治体などをメンバーに、事業主体となる協議会を設立し準備を進めていた。森林内の作業道路や加工場の整備、新たな機械の導入などを期待し、林業関連の約100企業・団体が名を連ねる。会沢義昭県林政課長は「景気刺激策として期待していたが、今後どうなるか分からない。こんなことはこれまでなかった」と漏らす。
対照的に県長寿福祉課には10日、厚労省からメールが届き、「介護職員処遇改善等臨時特例基金」について予定通り予算化を進めるよう促してきた。人手不足に悩む介護保険事業所に助成金(職員1人当たり月1万5000円)を出し、待遇改善に活用するもので、担当者は「凍結されると介護現場の期待を裏切る。とりあえず進めていいということなので一安心」と胸をなで下ろす。
県は6月補正予算で、「緊急雇用創出事業臨時特例基金」に国の交付金69億円を充てている。民主党の凍結方針はあるものの、10月補正予算案ではさらに12の基金に約200億円を盛り込む方針だ。羽白淳県財政課長は「国から交付金を執行する方針が出された場合に、すぐに対応できるようにするため」と話しており、他の都道府県もほぼ同様の方針という。
県が戦々恐々としているのが、医師確保策などに使う「地域医療再生基金」の行方。国は3100億円を交付する予定で、各都道府県が現在計画を練っている段階だ。県の予算化も12月定例県議会となる見通しで、県の担当者は「国が各都道府県への交付金額を決める前なので、削られやすいのでは」と心配している。県内では医師不足が深刻なだけに、山口やちゑ保健福祉部長は「是非実施してほしい。ゼロ査定になり、中止になるのは困る」と話している。

一方、自民・公明の前政権下において、わが国が直面している未曾有の経済危機を克服するために、平成21年度予算及び補正予算が可決成立しています。総額で14兆円を超えるこの予算には、地域活性化・公共投資臨時交付金、地域活性化・経済危機対策臨時交付金、経済対策関連の自治体に交付される15の基金などの創設等が計上されており、地方自治体は、その基金などの活用を前提に、経済危機対策に資する事業を計画し、補正予算の議決と事業の執行を目指して、準備を行っています。
新政権によって、前述の経済危機対策事業についての予算執行が見直されることになれば、すでに、関係事業を執行中あるいは、執行準備が完了し、事業の広報・周知が済んでいる地方自治体にとって、誠に憂慮すべき事態の発生します。
万一、関係事業を中止せざるを得ない事態になれば、地方自治の混乱を招くだけでなく、地域雇用情勢にも深刻な打撃を与え、経済対策の効果によって、景気底入れから成長に転じる兆しの出てきた日本経済に悪影響を及ぼしかねない恐れがあります。
井手よしひろ県議らも、10月県議会を控え、県行政への補正予算の執行凍結による影響などを調査していますが、県執行部からの意見を聴取すればするほど、その深刻さに当惑しているのが実情です。
衆院選後、地域をご挨拶でまわっていても、子ども手当ての充実や高速道路の無料化を求める言葉はほとんど聞かれません。地域の医療体制の改善や、雇用の状況の改善、そして何よりも景気の回復を願う声が高まっています。民主党の新政権への「不安の声」は日々高まっています。
こうした現状を深く考慮し、新政権においては、政策の見直し、税制の改革、制度の変更にあたっては、とりあえず、平成21年度予算及び補正予算によって、地方自治体の進めてきた施策や事業について財源問題で執行に支障が生じることのないよう、その方針転換が強く求められています。
国の経済対策予算を活用して地方自治体に造成される基金
所管府省 | 施策(基金)名 | 事業規模 (億円) |
事業の概要 |
内閣府 | 地方消費者行政活性化基金 | 110 | 消費者生活相談窓口機能強化を図るため、相談員育成等を行う地方公共団体を支援。消費者庁関連3法案の成立に伴い、地方公共団体の事務の増大に対応するための基金※3年間の時限措置(都道府県に基金を設置) ※20年度補正による交付金は配分済み |
地域自殺対策緊急強化基金 | 100 | 自殺防止等に対して自主的な取り組みを行う地方公共団体等を支援。 都道府県に3年間の基金を造成。(47都道府県×7千万円×3年間)→地方負担なし |
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文科省 | 高校生の授業料減免・奨学金事業に対する緊急支援 | 486 | 困窮家庭の高校生に対して、地方自治体が行う授業料減免、奨学金事業を支援。都道府県に3年分の基金を設置 ※準要保護、就園奨励費については、地域活性化・経済対策臨時交付金で措置 ※その他、大学の行う学生への経済的支援等に対する無利子融資の創設や、奨学金事業の拡充も行われる。 |
農水省 | 森林整備加速化・林業再生事業(緑の産業再生プロジェクト⇒新規事業) | 1238 | 森林整備(間伐)・木材加工施設の整備などを地域で一体的に行うための支援 都道府県に最長3年の基金を設置 2007年~2012年の6年間で330万haの間伐の推進を図る。(森林吸収源対策) |
森林整備地域活動支援交付金 | 31 | 平成14年度から実施されている支援措置。今回は、さらに31億円を 都道府県の基金に積み増し 森林の境界の明確化等を行う森林所有者等を支援。 |
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厚労省 | 医療施設耐震化事業 (災害拠点病院等の耐震化整備) |
1222 | 災害拠点病院等の耐震化を推進するための支援。 都道府県に基金を設置し、費用を助成 |
社会福祉施設等の耐震化、スプリンクラー整備事業等 | 1062 | 社会福祉施設の耐震化等を推進するための支援。 都道府県に基金を設置し、費用を助成 |
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緊急雇用創出基金 | 3000 | 失業者に対する雇用・就業機会の創出のための事業等の実施。 20年度補正予算で都道府県に創設した基金の積み増しを行う。(23年度末まで) 雇用創出効果30万人 |
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地域医療再生基金 | 3100 | 地域医療の課題を解決するために、都道府県が作成する「地域医療再生計画」に基づいて行う事業を支援。 都道府県に基金を設置(5年を目途) |
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介護職員の処遇改善等 (介護職員処遇改善交付金) |
4000 | 介護職員の処遇改善等の取り組みを行う事業者に対する助成及び施設開設に要する経費等に対する助成 都道府県が基金を設置して実施 (3%アップで5,000円、今回で15,000円、合計2万円の賃金引き上げ) |
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介護拠点等の緊急整備 | 3000 | 介護施設や地域介護拠点の整備等に対する助成 いずれも3年分の措置 |
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障害者自立支援対策臨時特例交付金 | 1425 | 直接処遇職員の処遇改善等の取り組みを行う事業者に対する助成、運営の安定化に対する支援。 都道府県の基金に、平成20年度補正で855億円積み増ししたものを、さらに、1,425億円積み増し。 |
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高齢者医療対策 | 130 | 低所得者の高齢者の保険料負担軽減のため。 | |
厚労省 文科省 |
安心こども基金 | 1500 | 新待機児童ゼロ作戦の取り組み、保育サービス等の充実を図るための支援 平成20年度補正で創設された都道府県の安心こども基金1,000億円(20年度~22年度で15万人分の保育所整備)に今回1,500億円積み増しを行う |
環境省 | 地域グリーンニューディール基金 | 550 | 地方公共団体が行う地球温暖化対策のための施設整備等に対する支援 平成元年に設置されている都道府県の地域環境保全基金に積み増し、別勘定を設けて、3年間で取り崩して実施 |