12月20日、茨城県議会は12月定例会の最終日を迎え、「東日本大震災・元気ないばらきづくり調査特別委員会」の中間報告が行われました。
中間報告では、商工・農林水産業の早期復興、公共基盤施設の本格復旧、原子力災害からの脱却、災害に強いエネルギーシステムの構築、の4つの視点から、復興に向けた施策の方向性を提言しています。
中小企業の支援として、震災復興を新たな出発点に新エネルギーや省エネ技術を生かした成長分野への進出誘導策などが提言されました。
また、観光業の風評被害を払拭するため「観光地の放射線情報を積極的に公開し、大規模な誘客キャンペーンを実施すべき」とも提案。農林水産業の復興に向け、基盤施設の早期復旧とともに県産品の安全性や魅力をPRするきめ細かい支援を県執行部に求めています。
福島第1原発事故の対応については、「国と東京電力に対し、あらゆる機会に必要な対応を要求すべき」と訴え、事故を教訓とした原子力安全体制の抜本的な見直しを提言しています。国際原子力機関(IAEA)の拠点誘致にも取り組むべきとしました。
さらに、橋本昌県知事が現段階では必要がないと明言している子どもの健康診断についても、「子どもや妊産婦等希望者への健康影響調査の実施など、県民の不安を払拭するための施策を推進すべきである」と指摘しました。
以下、特別委員会が指摘した主な「復旧・復興に向けた諸課題」を列記します。
- 観光における風評被害の払拭及び県内観光地への誘客促進
福島第一原子力発電所事故の収束については不透明な状況が続いており、風評被害により、県内への旅行者や宿泊客が大幅に減少している。また、茨城空港においては、震災発生後から、一部の国際便が運航を休止しており、再開が見通せない状況にあるなど、外国人観光客の減少や現在の状態の長期化が懸念される。このようなことから、早急に風評被害の払拭を図るとともに、県内観光地等への誘客を促進することが必要である。 - 被災企業への公的金融支援
被災した施設・設備の復旧や短期・長期の間接被害に係る資金需要が増加しており、東日本大震災緊急復興融資の実績は、11月までに1,000億円近くに上ったほか、今後、風評被害や円高の長期化などによって、中小企業の財務基盤の悪化も懸念されることから、公的資金の融資対策については、企業ニーズを踏まえて十分な規模の確保を図る必要がある。
また、いわゆる「二重ローン問題」については、多くの被災事業者の経営再建を困難にしていることから、事業者の旧債務を切り離すことにより、金融機関からの新規融資を受けやすくする等、被災事業者の経営再建を目的とした新たな支援制度が創設(茨城県産業復興機構の設立)されたが、今後、その有効な活用を図る必要がある。 - 本県農林水産物のイメージアップ、消費の拡大
福島第一原子力発電所事故に起因する風評被害や需要の減少等により、本県農林水産物の価格に影響が生じ、今後も予断を許さない状況にあるほか、消費者の食に対する不安感も高いことから、本県農林水産物のイメージアップと消費者の信頼確保を図ることが必要である。 - 将来の大規模災害への備え
公共基盤施設について、被災原因の究明を徹底し、ハード面としては、今後想定される災害レベルに応じた施設整備が求められるほか、災害による被害をできるだけ小さくするという「減災」の観点から、ソフト面の防災対策の充実や体制確保を図るなど、将来の大規模災害に備えることが必要である。 - 放射線等に係る県民の不安払拭
今回の福島第ー原子力発電所事故によって飛散した放射性物質は、本県を含む広い範囲に拡散しており、農林水産物等の出荷制限、学校や道路側溝等の身近な空間で高い放射線量が検出された問題などが報道されるたびに、県民、特に乳幼児等を持つ保護者の聞に不安が広がっている。このため、放射線等による健康への影響を心配する県民の不安を早期に払拭することが必要である。 - 教訓を踏まえた原子力安全体制の強化
今回の福島第一原子力発電所事故については、「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」において調査・検証が行われているところであるが、現段階においても、全交流電源機能が喪失し、これに対応できずシビアアクシデントに至ったことや想定を超える広い範囲に短時間で放射能が拡散し、情報提供の遅れにより住民避難に混乱を招くなどの課題が指摘されていることから、教訓を活かし、県内原子力施設の安全確保の一層の徹底を図ることが必要である。
さらに、今回の原発事故では、大気中への放射性物質の拡散だけでなく、高濃度の汚染水が海洋放出されるなど、諸外国の環境への影響も懸念されており、ひとたびシビアアクシデントが発生すれば、その影響は周辺国にも及ぶことから、事故の教訓を国際的に共有し、アジア太平洋諸国の原子力利用の安全確保にも役立てることが必要である。 - 原子力損害賠償請求に係る支援継続
県では、福島第一原子力発電所事故により損害を受けた被災者への対応について損害賠償請求に必要な体制整備や情報提供などに取り組んでいるが、今後も損害賠償の請求が続くほか、損害賠償の対象になるかなど、請求に必要な情報が十分に届いていない事業者もいることから、全ての被害者が迅速かつ公平に賠償を受けられるよう支援を継続することが必要である。 - 学校施設の耐震化目標の前倒し等
今回の地震による学校施設の被害状況と耐震化の関係を詳細に分析し、検証結果を公表すべきである。また、県の耐震改修促進計画で平成27年度とされている耐震化目標時期の前倒しを図るほか、90%とされている小中学校の耐震化については100%を目指すべきである。また、耐震指標Is値が0.3未満で倒壊等の危険性が高い学校施設について、最優先で耐震化を図るべきである。さらに、生活関連物資の備蓄機能の向上、自家発電設備や暖房設備の導入など、地域の防災拠点として、小中学校等の機能強化を図るべきである。 - 市町村行政庁舎の復旧促進
今回の災害により、県内でも、破損や崩落など甚大な被害を受けた市町村行政庁舎があり、その迅速な復旧が望まれている。しかし、市町村では、この広域震災により復旧・復興に莫大な経費を必要としていることから、市町村行政庁舎の復旧経費への財政措置について、国に強く働きかけるべきである。 - 津波対策の強化
本県は、190キロメートルにわたる海岸線を有しているほか、平坦な地形が広がっており、本県沖で大規模な地震が発生した場合には、広範囲にわたって被害が発生する可能性があることから、津波対策の強化は重要かつ喫緊の課題である。
このため、津波警報の伝達や避難経路、避難場所のあり方などについて、このたびの津波被害の検証を徹底すべきである。また、政府の地震調査研究推進本部は、本県沖を含む三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りで、今後30年以内にマグニチュード9クラスの地震が30%の確率で起きると予測しており、こうした地震も設定して、県民の命を守ることを最優先に早急に津波対策の強化を図るべきである。 - 情報通信環境の改善
震災の発生後、停電の影響で携帯電話の基地局の機能が停止したほか、通信量の大幅な増加により、携帯電話がつながりにくい状態になるなど、情報通信基盤の脆弱性が明らかになった。
携帯電話は、今や最も重要な情報伝達手段であり、災害時にも安定した通話ができるような基盤の強化が必要であることから、基地局の電源機龍の強化や移動基地局の増強、十分な周波数帯域の確保、さらに衛星携帯電話やIP電話の普及促進などについて、国や民間通信事業者に強く働きかけるべきである。 - 放射線等の正しい理解と県民の不安払拭
より一層きめ細かな放射線モニタリングの実施や除染、放射線の健康影響に関する正しい知識の普及啓発を行うとともに、子どもや妊産婦等希望者への健康影響調査の実施など、県民の不安を払拭するための施策を推進すべきである。
特に広報にあたっては、高齢者等にも配慮した、詳細で分かりーやすい情報提供に取り組むべきである。 - 国際原子力機関(IAEA)の拠点誘致
韓国や中国、台湾など、アジア太平洋地域の国々では、数多くの原子力発電所が運転・建設中であり、今後も設置が計画されている。今回の原発事故では、大気中への放射性物質の拡散だけでなく、高濃度の汚染水が海洋放出されるなど、周辺国の環境への影響も懸念されており、ひとたびシピアアクシデントが発生すれば、その影響は周辺国にも及ぶことから、事故の教訓を国際的に共有し、アジア太平洋諸国の原子力利用の安全確保にも役立てることが必要である。
一方、本県には、世界最先端の科学技術の集積があり、中でも東海村及びその周辺地域には、原子力関連研究施設が集積し、多様な原子力科学研究が行われるなど、国際的な原子力利用の安全確保を図るうえでも大きなポテンシヤルを有している。そこで、アジア太平洋地域における原子力利用の安全確保と我が国の信頼回復に貢献するため、本県が持つポテンシャルを活かして、技術支援や人材育成、保障措置などを総合的に行う国際原子力機構(IAEA)の拠点誘致に率先して取り組むべきである。