日立電鉄鉄道部門の存続問題がクローズアップされています。既に、日立電鉄は取締役会で、3月中に来年3月末をもって、鮎川~常北太田の廃線届けを国土交通省に提出する方針を決めています。
これに対して、沿線住民や通学に利用する高校生の連絡協議会からは、存続を求める署名が提出されています。
こうした存続運動が起こり、マスコミの報道も繰り返されてはいますが、一般市民の関心はあまり高まっていません。その要因の一つに、存続を求める運動自体が、「日立電鉄が無くなると不便になる」「チン電が無くなると寂しい」といった感情的な議論に終始し、電鉄線を廃止すること、存続することのメリット、デメリットが具体的に議論されていないことが問題ではないかと考えます。
そうした地に足がついた議論のたたき台になればとの思いで、いくつかの問題提起をさせていただきます。
鉄道のメリットとは何か具体的に考察する
1.利用者にとって
(定時性と高速性)鉄道は、交通渋滞や天候の影響を受けにくく、正確な時間でより早く乗客を運べます。
具体的には、現在大みか駅~常北太田の所要時間は25分程度で正確な運行が確保されています。反面、バス路線は同区間を30分以上かけています。(国道349号線にはバス路線がなく直接の比較はできません)
(安い運賃)鉄道は、バスに比べて運賃が安いという特長があります。また、通学や通勤定期の割引率が高いのも鉄道の優位点です。大みか駅~常北太田駅で、鉄道運賃は往復980円、バスは1120円と14%も割高です。定期券利用者にとっては、6カ月定期で、鉄道が通勤109520円、通学69340円に対してバスは、通勤121550円(11%割高)、通学94180円(36%割高)となっています。つまり、通学利用者については、鉄道からバスに乗り換えると年間で49680円の負担増となります。
大みか~常北太田 | 鉄道 | バス | 備考 |
所要時間 | 25分 | 30分~40分 | バスが5分から15分遅い |
往復運賃 | 980円 | 1120円 | バスが14%割高 |
6ヶ月通勤定期 | 109520円 | 121550円 | バスが11%割高 |
6ヶ月通学定期 | 69640円 | 94180円 | バスが36%割高 |
2.地域全体にとって
(大量輸送)鉄道は1編成(2両)で250人から300人の乗客を運べます。バスは1台当たり40から50人しか運べません。例えば、朝7時台と8時台で日立電鉄は2000人の利用者がありますが、これを全部バスに変更すると40から50台のバスを走らせる必要があります。これは、2分から3分に一台バスを新たに運行するということに他なりません。
(環境負荷が低い)電車は環境に優しい乗り物です。1人の人を1km運ぶのに排出される二酸化炭素量はバスが94gであるのに対して鉄道は17gです。バスの6分の1です。更に、自家用車と比べると10分の1以下です。
(地図や時刻表に掲載)鉄道は地図や時刻表に載ります。駅は、まちづくりのシンボルです。地域の人の連帯感を育みます。常陸太田市内または近郊には、4つの県立高校があり、2334人の生徒が通っていますが、内250人が日立電鉄を利用しています。高校生の通学が不便になれば、少子化とも相俟って県立高校の再編が進む可能性もあります。歴史と教育の街・太田にとって死活問題になるかもしれません。
学校名 | 生徒数 | 日立電鉄 利用者 |
太田一高 | 968 | 118 |
太田二高 | 613 | 92 |
佐竹高 | 589 | 28 |
里美高 | 164 | 12 |
合 計 | 2334 | 250 |
日立電鉄の経営状況を考察する
そもそも日立電鉄の経営状態が、他の鉄道会社と比べてどの程度であるかを明確にしたいと思います。
存続運動が実り沿線市町村・県が支援して経営努が続けられている鹿島鉄道の営業係数143円と比べると日立電鉄の117円は、むしろ良い結果になっています。
鉄道名 | 区間 | 輸送人員 | 輸送密度 | 営業係数 |
鹿島鉄道 | 石岡~鉾田 | 90万人 | 640人 | 143円 |
茨城交通 | 勝田~阿字ケ浦 | 88万人 | 1420人 | 101円 |
日立電鉄 | 鮎川~常北太田 | 177万人 | 1516人 | 117円 |
真岡鉄道 | 下館~茂木 | 128万人 | 1609人 | 143円 |
検討すべきポイントの整理
1.運営形態の検討
公共交通を民間事業者にすべて任せてよいのでしょうか。例えば、鉄道施設を公営化し、運営を民間事業者に委託するといった選択も検討すべきです。日立電鉄・日立市・常陸太田市・茨城県・国土交通省・学識経験者・利用者代表・沿線住民代表が参加した(仮称)「日立電鉄線のあり方検討会」を設置し、しっかりとした方針を模索すべきです。
2.住民・利用者への説明責任
企業の財政面での理由のみで存続の是非が語られ、住民や利用者に正確な情報が伝わっていません。会社としての現状の財政状況や今後の見込みなど、廃止に至る経緯などをインターネットで公開するなど、説明責任を果たすべきです。事業者と行政は、周辺住民には少なくても駅ごとに、高校生には学校ごとに、通勤利用者には大規模事業所ごとに、説明会・意見交換会を開催すべきです。
3.廃線時期の再検討
以上のようなプロセスを踏むためには、来年3月廃線というのはあまりに唐突ではないでしょうか。最低でも日立電鉄の存続を前提に高校を選択した現在の高校1年生が卒業する2006年4月以前の廃線は検討すべきではありません。